農薬・肥料メーカーとは|業界の基本&主要企業まとめ

農薬・肥料メーカー業界&企業まとめ化学
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農業とは関係のない仕事をしていても、私たちは毎日その恩恵をいただいて生きている。コンビニで袋詰めされた野菜、あるいはおにぎりになった米も、元を辿れば田畑で育てられたものです。

そんな農業を化学の技術で支えているのが農薬や肥料を作っているメーカーの人たちです。

農薬・肥料メーカーとは

”農薬は治療薬””肥料は栄養” つまり彼らは農業ドクター

ところで、農薬というものにあなたはどんなイメージを抱いているでしょうか。「農薬は体に悪い」「無農薬の農業のほうがよい」と思っている方も少なからずいるのかもしれません。

オーガニック野菜や無農薬栽培ももちろん素晴らしいのですが、世間一般ではやや悪者扱いな農薬は「農業の薬」、人間でいうウイルスに対抗する薬と一緒。もし全く農薬を使わない農家さんばかりになったなら、同じ田んぼから取れる米は少なくなり、農家さんの労力は増え、生産性は落ちてしまいます。

そう、つまり農薬・肥料メーカーは、「食料を安定して得る」という人類が生きるための重要ミッションに対して、科学技術を駆使して解決手段を提供している産業なのです。

農薬・肥料メーカーの顧客と提供価値

改めて農薬・肥料メーカーがどんな人に対し、どんな価値を提供しているかを解説していきましょう。

主な顧客は大きく分けて2つあります。

1つ目は農家の方々です。専業農家から兼業農家まで、作物を育てる人たちが直接の顧客となります。

例えば、農家の方々はこんな悩みを抱えています。
「今年はいもち病が流行っていて、収穫が心配だ…」
「肥料の値段が上がって、経営が厳しい…」
「高齢化で人手が足りないのに、雑草の管理が大変…」

このような課題に対して、農薬・肥料メーカーは次のような価値を提供しています。

  • 病害虫対策製品で収穫量の安定化を実現
  • 効果の高い肥料で単位面積あたりの収穫量を増加
  • 省力化につながる長期効果型の製品開発
  • 技術指導員による栽培アドバイス
  • スマート農業に対応したソリューション提供

2つ目の顧客は、農協(JA)や農薬・肥料の卸売業者です。彼らは製品を農家に届ける重要な役割を担っています。彼らの課題は以下のようなものです。

「品質の良い製品を、安定的に仕入れたい」
「農家に適切な製品を推奨できる情報が欲しい」
「在庫管理を効率化したい」

これに対して、農薬・肥料メーカーは次のような価値を提供しています。

  • 厳格な品質管理による安全で信頼性の高い製品の供給
  • 製品の特性や使用方法に関する詳細な情報提供
  • 需要予測に基づく効率的な在庫管理システムの提供

さらに、最近では新しい顧客層も現れています。例えば、家庭菜園を楽しむ一般消費者向けの製品開発も増えてきました。「無農薬・有機栽培」のニーズに応える生物農薬や有機肥料なども、重要な製品カテゴリーとなっています。

農薬・肥料メーカーの業界分類

農薬・肥料業界の全体像を把握するため、分類してみましょう。

まず、大きく「製品タイプ」と「事業規模・形態」の2つの軸で分類できます。各プレイヤーは、自社の強みを活かしながら、市場での競争優位性を確保しています。

製品タイプによる分類

総合農薬・肥料メーカー農薬専業メーカー肥料専業メーカー
企業例住友化学、クミアイ化学工業など日本農薬、石原産業など片倉コープアグリ、カネカなど
事業特徴農薬・肥料の両方を手がける農薬の開発・製造に特化化学肥料や有機肥料の製造に特化
強み研究開発から製造・販売まで一貫して行う殺虫剤、殺菌剤、除草剤などをフルラインで展開土壌改良剤なども手がける

事業規模・形態による分類

グローバルメガプレイヤー国内大手メーカー地域特化型メーカー
企業例シンジェンタ、バイエル、BASFなど住友化学、クミアイ化学工業など各地域の中小メーカー
事業特徴世界規模で事業展開国内市場で大きな影響力特定地域・作物に特化
強み研究開発費が大きく、特許を多数保有海外展開も積極的に推進地域ニーズに密着した製品開発
みじん
みじん

新規の農薬を開発するには、約10年の期間と200~300億円の費用がかかると言われています。また、厳しい安全性試験もクリアする必要があります。このため、この業界は参入障壁が高いと言われています。

農薬・肥料メーカーの将来性

はい、農薬・肥料業界の将来性について、最新のトレンドを交えながら解説します。この業界にには、大きく3つの重要なトレンドがあります。

スマート農業との融合

例えば、ドローンによる農薬散布が急速に普及しています。これに合わせて、ドローン散布に適した製剤設計が進んでいます。さらに、センサーとAIを活用して、本当に必要な場所に必要な量だけ散布する「精密農業」も実現しつつあります。他にも、

  • スマートフォンで病害虫を診断するAIアプリ
  • 気象データと連動した散布適期予測
  • 土壌センサーと連携した最適施肥システム

など、デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルが生まれています。

環境負荷低減への取り組み

「環境に優しい農業」への世界的な要請を受けて、業界は大きく変わろうとしています。

  • 生物農薬の開発が加速
  • 肥料の施肥量を削減できる新技術
  • 有機栽培向けの新製品開発

特に注目なのは、微生物を活用した製品です。害虫の天敵となる微生物や、植物の生育を促進する有用菌など、自然界の力を活用する製品が増えています。

気候変動への対応

温暖化で、農業を取り巻く環境は大きく変化しています。特に、気候変動による異常気象への対応は、重要なトピックスです。

  • 高温耐性品種に適した農薬開発
  • 異常気象に対応した新製品
  • CO2削減に貢献する土壌改良材

など、既存製品の見直しや代替品開発が必要になっています。

農薬・肥料メーカーの課題

一方で、農薬・肥料業界が直面している共通の課題についても、具体的に見ていきましょう。

開発コストの高騰

実は、1つの新規農薬を開発するのに約10年の期間、200~300億円の費用がかかります。

さらに、世界的に農薬規制が強化されて年々安全性試験の要件が厳格化し、開発コストは上昇傾向にあります。このため、中小企業での新規開発が難しくなっているのです。

原材料調達の不安定化

最近、肥料の価格が上がっており農家さんの頭を悩ませていますが、原料自体の価格が高騰しており、メーカーさんも頭を抱えています。

主な背景は外交情勢による資源価格の高騰、サプライチェーンの混乱によるものです。特にリン鉱石や天然ガスなど、主要原料の価格変動が経営を圧迫しています。

農業従事者の減少

日本国内では農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加によって、農業を行っている作付面積自体の減少傾向が見られます。これにより、農薬・肥料の国内市場の縮小が懸念されています。

みじん
みじん

業界全体が大きな転換期を迎える中、各社は様々な施策を打ち出しています。しかし、すべての課題を一社で解決するのは難しく、業界全体での協力や、場合によっては官民協働での働きかけも行われています。

農薬・肥料メーカー主要企業18社

日産化学株式会社

日本最初の化学肥料会社として高峰譲吉と渋沢栄一によって設立された。農薬の他に半導体・ディスプレイ材料なども事業の柱。

従業員数:【単体】1,890名【連結】2,640名
設立:1887年
上場区分:上場【4021】
本社:東京都中央区日本橋二丁目5番1号
採用サイト:https://www.nissanchem.co.jp/saiyo/

クミアイ化学工業株式会社

全農系で農薬専業首位級。水稲用除草剤が主力の製品。インドや南米などを中心に海外へも販売。

従業員数:【単体】745名【連結】1,716名
設立:1949年
上場区分:上場【4996】
本社:東京都台東区池之端一丁目4番26号
採用サイト:https://www.kumiai-chem.co.jp/recruit/newgraduate/

日本農薬株式会社

日本初の農薬専業メーカー。海外での売上が全体の60%超。

従業員数:【単体】381名【連結】1,451名 
設立:1928年
上場区分:上場【4997】
本社:東京都中央区京橋1-19-8
採用サイト:https://www.nichino.co.jp/recruit/information/index.html

日本曹達(ソーダ)株式会社

苛性ソーダの製造が原点で、農薬分野をはじめ工業薬品も強い。農薬では殺虫剤が看板商品。売上比率の35%は海外。

従業員数:1,399名
設立:1920年
上場区分:上場【4041】
本社:東京都千代田区大手町二丁目2番1号
採用サイト:https://www.nippon-soda.co.jp/recruitment/saiyo/index.html

石原産業株式会社

塗料用などの酸化チタンの大手だが、農薬も事業の柱で売上構成の約半分を占める。生理活性物質の開発力が強み。

従業員数:1,106名
設立:1949年
上場区分:上場【4028】
本社:大阪市西区江戸堀一丁目3番15号
採用サイト:https://www.iskweb.co.jp/saiyo/person/

片倉コープアグリ株式会社

肥料分野で業界シェアNo.1。丸紅系列の片倉チッカリンと全農系のコープケミカルが2015年に合併。

従業員数:【単体】630名【連結】842名
設立:1920年
上場区分:上場【4031】
本社:東京都千代田区九段北一丁目8番10号 住友不動産九段ビル
採用サイト:http://www.katakuraco-op.com/rec/

北興化学工業株式会社

稲のいもち病を防除する殺菌剤をはじめ、数百品目の農薬製品を送り出している。全農系でJAを通じて製品販売を行う。

従業員数:636名
設立:1950年
上場区分:上場【4992】
本社:東京都中央区日本橋本町一丁目5番4号
採用サイト:https://www.hokkochem.co.jp/recruit/index.html

OATアグリオ株式会社

農薬と肥料の開発・製造企業。大塚化学からMBOで分離独立。植物成長調整剤にも注力

従業員数:537名
設立:2010年
上場区分:上場【4979】
本社:東京都千代田区神田小川町1-3-1 NBF小川町ビルディング
採用サイト:https://www.oat-agrio.co.jp/recruit/index.html

多木化学株式会社

肥料メーカーの先駆けで、日本で初めて人造肥料の開発に成功した。現在では水処理薬剤などの化学薬品の売上比率も高い。

従業員数:474名
設立:1885年
上場区分:上場【4025】
本社:兵庫県加古川市別府町緑町2番地
採用サイト:https://www.takichem.co.jp/recruit/index.html

三井化学アグロ株式会社

独自性の高い製品郡が特徴の農薬メーカー。前身となる会社は日本初の合成農薬を開発した。

従業員数:450名
設立:2003年
上場区分:非上場(三井化学グループ)
本社:東京都中央区日本橋1丁目19番1号 日本橋ダイヤビルディング
採用サイト:https://www.mitsui-agro.com/recruit/

協友アグリ株式会社

中堅農薬メーカー。特に水稲のための除草剤が有名で、9年連続で普及面積日本一となっている。

従業員数:285名
設立:1938年
上場区分:非上場
本社:神奈川県川崎市高津区二子六丁目14番10号
採用サイト:https://www.kyoyu-agri.co.jp/employ/recruit.html

日東エフシー株式会社

独立系の化学肥料メーカー。農家に対して農業や肥料に関する技術指導を行う専門部署を持っている。

従業員数:284名
設立:1952年
上場区分:非上場(2019年上場廃止)
本社:名古屋市港区いろは町1-23
採用サイト:https://www.nittofc.co.jp/recruit/index.html

アグロ カネショウ株式会社

果樹、野菜向け農薬専業。農家密着型営業に特徴。全農以外の商社系販路に重心。

従業員数:275人
設立:1951年
上場区分:上場【4955】
本社:東京都港区赤坂四丁目2番19号 赤坂シャスタ・イースト
採用サイト:https://www.agrokanesho.co.jp/recruit/index.html

株式会社エス・ディー・エス バイオテック

農薬専業で原体開発に特色。殺菌剤ダコニールが主力。昭和電工から独立。TOBで出光傘下になった。

従業員数:180名
設立:1968年
上場区分:上場【4952】
本社:東京都中央区東日本橋一丁目1番5号ヒューリック東日本橋ビル
採用サイト:http://www.sdsbio.co.jp/recruit/

スガイ化学工業株式会社

農薬、医薬など各種中間物主体のファインケミカル専業メーカー。 電子材料や界面活性剤も。

従業員数:172名
設立:1928年
上場区分:上場【4120】
本社:和歌山市宇須四丁目4番6号
採用サイト:https://www.sugai-chem.co.jp/recruit/index.html

サンケイ化学株式会社

農薬の中堅専業メーカー。全農への販売依存4割程度。緑化や地域病害虫への対応を推進 

従業員数:138名
設立:1941年
上場区分:上場【4995】
本社:鹿児島県鹿児島市南栄2丁目9番地
採用サイト:http://www.sankei-chem.com/(採用サイトなし)

【外資系】バイエルクロップサイエンス株式会社

親会社はドイツに本社を置く世界的な医薬品メーカー「バイエル」。農薬部門専門の日本法人として展開。

従業員数:322名
設立:1941年
上場区分:非上場
本社:東京都千代田区丸の内1丁目6番5号 丸の内北口ビル
採用サイト:https://career.bayer.jp/en/

【外資系】シンジェンタジャパン株式会社

スイスに本社を置く農薬業界の世界最大手「シンジェンタ」の日本法人。

従業員数:約330名
設立:1992年
上場区分:非上場
本社:東京都中央区晴海1-8-10 オフィスタワーX
採用サイト:https://www.syngenta.co.jp/career

【外資系】BASFジャパン株式会社

ドイツに本社を置き、全世界で10万人以上の社員を擁する世界最大の総合化学メーカー・BASFの日本法人。

従業員数:955人
設立:1949年
上場区分:非上場(ドイツ本社BASF100%小会社)
本社:東京都中央区日本橋室町 3-4-4 OVOL 日本橋ビル
採用サイト:https://www.basf.com/jp/ja/careers/NewGrad.html

農薬・肥料メーカーで働く魅力

農薬・肥料業界で働く魅力って、意外と奥深いものがあるんです。ここではその片鱗を3つのポイントでご紹介します。

命を育む仕事である

研究所で新しい農薬を開発している時、畑で効果を確認している時、営業で農家さんと話している時。どの瞬間も、実は「食」という人間の根源的な営みに関わっているんです。

自分たちの仕事が、誰かの食卓を、誰かの暮らしを、確かに支えている。その実感は、何物にも代えがたい価値があるんです。

「科学」と「自然」の掛け算

最先端の研究施設で新しい物質を探究しながら、古くからの農業の知恵に耳を傾ける。そのバランス感覚が、この仕事ならではの醍醐味かもしれません。

春の土の香り、夏の緑のまぶしさ、秋の収穫の喜び、冬の静けさ。オフィスワークだけじゃない、自然のリズムを感じられる仕事。それって、なんだかとても贅沢なことだと思いませんか?

「つながり」の深さ

新製品の開発には気の遠くなるような時間がかかります。だからこそ、農家さんとの長期的な関係、研究者同士の深い絆、先輩から後輩への技術の継承など、その過程で培われる大切な何かがある。そこには、数字だけでは測れない価値があるように思います。

みじん
みじん

この業界には「食べること」への深いリスペクトがあります。だから、みんな「いただきます」を律儀に言うし、食べ残しを気にする。それは、自分たちの仕事が「食」に関わっているという、誇りと責任感からかもしれません。

この記事の執筆者
みじん

1992年生まれ。死ぬまでにあらゆる仕事を知りたいと思っているお仕事マニア。

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