塗料業界とは
塗料は色だけじゃない。暮らしを守っている。
塗料と聞くと、色を塗るペンキのイメージが強いかもしれません。でも実は塗料って、単に物に色を付けるだけのものではないんです。
塗料業界の存在意義は、大きく分けて3つあります。
- 物を守ること
例えば、私たちの身の回りにある鉄製の橋や建物。これらは放っておくと錆びてしまいます。塗料には、このような劣化から物を保護する重要な役割があるんです。
- 美観の向上
建物や自動車、家具などに色や光沢を与えることで、私たちの生活を豊かで快適なものにしています。
- 機能性の付与
例えば、熱を反射する塗料は建物の省エネに貢献しますし、抗菌塗料は病院などの衛生管理に役立っています。最近では、太陽光を吸収して発電できる塗料の開発も進んでいます。

塗料業界は、私たちの暮らしの安全性、快適性、そして持続可能性を支える、とても重要な産業なんです。
塗料業界は誰がお客様か?
塗料業界の顧客層って、一般の方々から大手メーカーまで実はとても幅広いんです。それぞれの課題に、どんなアプローチをしているのか、具体的に見ていきましょう。
建設・建築業界
彼らの最大の課題は建物や道路などの長寿命化です。建物は風雨にさらされ、紫外線を浴び続けます。塗料メーカーは、耐候性や防水性に優れた塗料を提供することで、建物の寿命を延ばし、メンテナンスコストを削減するという価値を提供しています。
住宅業界
住宅業界に対しては、建物の保護の役割はもちろん、生活の質を高める機能がある塗料を提供することで住宅の価値を高めています。
- 雨で汚れが落ちる自己洗浄塗料
- 抗ウイルス・抗菌・防カビ機能
- 消臭・調湿機能
自動車メーカー
自動車メーカーが塗料に求めているのは、色の美しさだけではありません。以下のような課題に対して、高機能な塗料を開発・提供しています。
- 耐久性(石や砂による傷つきの防止)
- 耐候性(紫外線による劣化の防止)
- 作業効率(塗装工程の短縮による生産性向上)
船舶会社
海水による腐食、貝や藻の付着…海の環境は塗料にとって過酷なんです。そのため、防食性、防汚性に優れた塗料を提供することで、船舶の維持管理コストの削減と燃費向上に貢献しています。
一般消費者
家庭ではDIYが人気ですよね。普段塗料を塗り慣れない人でもキレイに仕上がるよう、こんな製品やサービスを提供しています。
- 誰でも均一に塗れる塗料の開発
- 塗り方の動画やマニュアルの提供
- 環境や健康に配慮した水性塗料の開発
塗料業界の業界分類
塗料業界の全体像をバリューチェーン(塗料の開発から最終ユーザーまでの流れ)に基づいて捉えてみましょう。
大分類 | 小分類 | 企業例 |
---|---|---|
原材料メーカー | 顔料メーカー | BASF、カネカ |
樹脂メーカー | 住友化学、三井化学 | |
溶剤・添加剤メーカー | 東亞合成、エボニック | |
塗料メーカー(製造・販売) | 総合塗料メーカー | 日本ペイント、関西ペイント、アクゾノーベル |
特殊塗料メーカー | 大日本塗料、エスケー化研 | |
塗料販売業者 | 商社・卸売業者 | トクヤマ、日本パーカライジング |
小売業者 | ホームセンター、オンラインショップ | |
塗装業者(施工会社) | 建築塗装業者 | 戸建て・ビルの塗装業者 |
工業塗装業者 | 自動車・船舶・航空機の塗装業者 |

機能や業種ごとに専門の会社が存在するので、塗料業界のプレイヤーは思った以上に多彩です。面白いですよね。
塗料メーカーの主要企業一覧
日本の塗料メーカーは、高い技術力を持っていることで知られています。日本ペイントや関西ペイントといった企業は、世界市場でも高いシェアを持っています。
日本の塗料業界の主要企業と特徴を紹介します。
日本ペイントホールディングス
- 国内最大手の塗料メーカーで、世界4位
- 自動車用塗料で世界トップクラスのシェア
- 汎用塗料、工業用塗料、自動車用塗料など幅広い製品ラインナップ

関西ペイント
- 業界第2位の大手メーカーで世界では8位規模
- 自動車用塗料が強みで、収益力が高い
- インドをはじめとする新興国市場での展開が特徴

中国塗料
- 主力は船舶用塗料で、世界2位・国内では6割のシェアを誇る。
- 世界20カ国、約60拠点で事業展開
エスケー化研
- 建築用塗料に特化し、外壁用塗料で高いシェア
- 住宅向け高機能塗料が特徴
- 独自の販売網を構築
大日本塗料
- 工業用塗料、建築用塗料が主力
- 橋梁・プラント向け防食塗料で強みを持つ
- 独自の調色システムを展開

日本特殊塗料
- 防音塗料、防振塗料などの特殊機能性塗料に強み
- 航空機用の金属塗料メーカーとして創業
- 自動車の制振材、防音材でも高いシェア
神東塗料
- 住友化学系の塗料メーカー
- 道路や自動車など工業用塗料中心
- 電機・電子部品向け絶縁塗料が特徴
菊水化学工業
- 建築仕上げ塗料・装飾材の独立系メーカー
- 建築物の改装・改修など塗装も担う
- 独自の機能性塗料を開発

塗料業界の将来性
塗料業界は今、環境問題への対応や技術革新を通じて、新たな成長機会を見出しています。従来の『塗る』という概念を超えた製品が登場しているんです。
環境負荷低減の波
第一に、環境対応の大きな波です。VOC(揮発性有機化合物)規制の強化により、従来の溶剤系から水性塗料へのシフトが進んでいます。
- 自動車メーカーでは、水性塗料の採用が標準になりつつある
- 植物由来の原料を使用した環境配慮型塗料の開発が進む
- 塗装工程でのCO2削減技術の開発
高機能化の進展
単なる『塗る』から『解決する』へと、塗料の役割が変わってきているんです。
- コロナを機に抗ウイルス・抗菌塗料の需要拡大
- 傷を自動的に修復する自己修復塗料の開発
- 建物の外壁で発電できる塗料の研究
新興国需要の拡大
特にアジア市場が注目されているんです。
- 新興国での建設ラッシュ
- 各国でインフラ整備需要の高まり
- 防災・気候変動対策としての活用

環境問題や社会課題に対して、塗料技術で解決策を提供できる新たな可能性が広がっています。
塗料業界の課題
一方で、塗料業界が直面している課題についても詳しく見ていきましょう。
原材料価格の高騰と供給不安
塗料の原材料は、その多くを海外に依存しています。
- 原油価格の変動による影響
- チタン顔料の供給不安
- 樹脂原料の価格高騰
これらのコストアップを、製品価格に転嫁できるかが大きな課題となっています。
市場構造の変化への対応
顧客である自動車や建設のトレンドに伴って、従来のビジネスモデルが通用しなくなってきています。
- 自動車産業のEV化による新たな塗装技術の必要性
- 建築市場の成熟化、新築需要の減少
- 環境配慮型製品への転換コスト
研究開発コストの増大
製品の高付加価値化が急務となり、技術革新のスピードが速くなっています。
- 高機能製品の開発競争
- 環境対応技術の開発
- 基礎研究の重要性増大

これらの課題を、いかに機会に変えていけるかが、今後の成長のカギとなりそうですね。
塗料業界の主な職種
塗料業界ではどんな職種がどんな仕事をしているのでしょうか。主な3つの部門の職種を見ていきましょう。
研究開発部門
新しい塗料を作る人たちです。化学の専門知識をもとに、製品開発を行います。
- 塗料研究員
- 新製品の開発・改良
- 原材料の配合設計
- 性能評価試験の実施
- 解析技術者
- 塗膜の物性評価
- 不具合原因の分析
- 新技術の基礎研究
製造部門
工場では、様々な専門家が連携して働いています。化学工学の基礎知識に加え、品質管理や生産管理などのスキルが身に付きます。
- 生産技術者
- 製造プロセスの改善
- 設備メンテナンス
- 生産効率の向上
- 製造オペレーター
- 生産ライン管理
- 原材料の調合
- 品質チェック
- 品質管理技術者
- 製品の品質検査
- 品質基準の設定
- 不良品の原因究明
営業部門
お客様との接点を担う重要な部門です。一般的な営業とは少し異なり、技術知識を用いた提案を行います。
- 法人営業
- 自動車メーカーや建設会社への提案
- 技術的な課題解決支援
- 製品選定のアドバイス
- 技術サービスエンジニア
- 塗装方法の指導
- 塗装トラブルの解決
- 顧客向け技術研修

塗料業界は化学の知識だけでなく、様々な専門性を持った人材が活躍できる場なんですね。
塗料業界に向いている人の特徴
塗料業界で活躍できる人の特徴について見ていきましょう。
技術と感性のバランスが取れている人
化学の知識は大切だけれど、それだけじゃありません。色の持つ印象や、塗料が使われる場所によって、ぴったりな製品は違うからです。
工場の機械に塗られる塗料は、作業する人の安全を守るため。新築の家に塗られる外壁の色は、そこに暮らす家族のため。お客様の想いまで感じ取れる繊細さも必要です。
環境と安全に対する責任感
最近特に強くなってきているのが、人の健康と安全を守る製品への思いです。工場で働く人、塗装する人、そして最終的にその製品に触れる人。関わる全員に優しい製品であるために、細かな品質管理に決して手を抜かない。そんな人が向いています。
人の話を聞ける人
この業界は日々進化しています。新しい技術、新しい規制、新しいニーズ。それらの変化を、前向きに捉えられる柔軟さが大事なんです。
現場に赴き、耳を傾け、お客様と一緒に技術を追求していく姿勢がこの業界では重宝されます。
塗料業界で働く魅力
家の外壁、橋、船、家電…ありとあらゆるものに使われる塗料の世界は 奥深くて、ロマンがあるんです。
目に見える形で社会に貢献できる
街を歩いていると、ふと目に入る建物の外壁や走り過ぎる自動車のボディ、子どもたちが遊ぶ公園の遊具。
さまざまな産業の役に立つ製品だから、日常の中でモノづくりの喜びを感じられる仕事です。
ニッチでありながら世界規模
日本の塗料技術は、世界的に見てもトップクラス。なので、グローバル企業とも渡り合い、海外でもガンガン展開しているんです。めちゃくちゃニッチで専門性が高いからこそ、プロフェッショナル人材 になりやすい世界です。
「守る」という使命
橋を錆から守り、建物を風雨から守り、工場の機械を腐食から守る。関わった塗料は何十年という時を超えて、街や人の生活を支えます。
目立たないけれど、どんな時代でも必要とされる。確かな手応えが持てる仕事です。
まとめ
この業界、知れば知るほど 「えっ、塗料ってこんなにすごいの!?」って驚かされること間違いなしです。
これから街中のあちこちで 塗料を見る目が変わるかもしれません。