電力業界とは
電気をつくる・運ぶ・届ける
電力業界は 「電気をつくる・運ぶ・届ける」という3つの大きな仕事をしています。私たちが毎日当たり前のように使っている電気ですが、この業界がなければ、スマホもパソコンも冷蔵庫も、使えません。
電気は、社会を動かす「血液」みたいなものです。もし電気が止まったら、工場は動かず、生産ラインは止まり、病院の機器も使えなくなる。だからこそ 「安定的に電気を供給する」 ことが、この業界の最大の使命なんです。
電気の発電方法は4種類
電気は、いろいろな方法で作られます。主な発電方法は次のとおりです。
- 火力発電(石炭・天然ガス・石油)
- コストが安く、大量に発電できるが、CO₂を排出する。
- 水力発電(ダムなど)
- 環境にやさしく、燃料が不要だが、立地が限られる。
- 原子力発電(ウラン燃料)
- CO₂を出さず、大量発電できるが、安全性が問われる。
- 再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱など)
- 環境負荷が少ないが、天候に左右されることもある。
電気をつくる方法にはそれぞれ一長一短があるので 「バランスよく組み合わせる」 ことが大切です。
電気はどうやって運ばれる?
発電所で作られた電気は、そのままでは家庭や工場には届きません。そこで 「送配電ネットワーク」 という仕組みを使って運びます。
送電網(高圧電線) :発電所から変電所へ、大きな電圧で送る。
配電網(低圧電線) :変電所で電圧を下げ、家庭やオフィスへ届ける。
つまり、電気は 「高速道路」→「一般道」→「家のコンセント」 みたいな流れで運ばれるとイメージするとわかりやすいです。
電力業界の業界分類
電力ビジネスには多くのプレイヤーが関わっています。
以下の3つの視点で、全体像を把握してみましょう。
✅電力の流れの視点:「発電」「送配電」「小売」に分かれる
✅市場・制度の視点:「電力市場」「需給調整」「再エネ支援」などに関与
✅企業タイプの視点:「総合電力」「発電専業」「新電力」「再エネ特化」など
① 電力の流れに沿った業界分類
電気の流れ(発電 → 送配電 → 小売)に沿った分類です。
分類 | 主な役割 | 代表的な企業・組織 |
---|---|---|
発電事業者 | 発電所を運営し、電気をつくる | JERA(火力)、関西電力(原子力)、東京電力リニューアブルパワー(再エネ)、オリックス(太陽光) |
送配電事業者 | 電気を運ぶ(送電線・配電網の管理) | 東京電力パワーグリッド、関西電力送配電、中部電力パワーグリッド |
小売電気事業者 | 電気を消費者に販売 | 東京電力エナジーパートナー、楽天でんき、ENEOSでんき、東京ガス |
- 2016年の電力自由化で 「発電・送配電・小売」 に分離されました。
- 送配電事業者は地域独占(他の会社は参入不可)。
- 発電・小売は競争市場 になり、多くのプレイヤーが参入しています。
② 市場・制度による分類(役割ベースの分け方)
電力を支える市場や制度を軸にした分類です。
分類 | 役割 | 代表的な企業・組織 |
---|---|---|
卸電力市場(JEPX) | 発電会社が電気を売り、小売会社が電気を買う市場 | 日本卸電力取引所(JEPX) |
需給調整市場 | 需給バランスを維持するための電力調整 | 一般送配電事業者(例:東京電力パワーグリッド) |
容量市場 | 将来の電力安定供給のために発電設備の維持費を確保 | 経済産業省、電力広域的運営推進機関(OCCTO) |
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT) | 再生可能エネルギーを一定価格で買い取る | 各電力会社、政府機関 |
- JEPX(卸電力市場) が重要な役割を果たし、小売電気事業者はここで電気を仕入れます。
- 容量市場 は将来の電力不足を防ぐために新設された制度(発電所の維持を支援)です。
- 再エネのFIT制度 により、再生可能エネルギー事業者は一定価格で売れる仕組みが存在しています。
③ 企業タイプによる分類(企業のビジネスモデル別)
企業の事業モデルに注目した分類です。
分類 | 事業モデル | 代表的な企業 |
---|---|---|
総合電力会社 | 発電・送配電・小売を持つ | 東京電力、関西電力、中部電力 |
発電専業会社 | 発電のみを行う | JERA(火力)、J-POWER(電源開発)、オリックス(再エネ) |
新電力(PPS) | 電力小売のみを行う | 楽天でんき、ENEOSでんき、東京ガス |
再生可能エネルギー事業者 | 再エネ発電を行う | ソフトバンクエナジー、レノバ、シェルジャパン |
送配電専業会社 | 送電・配電のインフラを管理 | 東京電力パワーグリッド、関西電力送配電 |
ガス・石油系電力会社 | ガスや石油とセットで電力を販売 | 東京ガス、大阪ガス、ENEOS |
- 総合電力会社は発電・送配電・小売を持つが、送配電は地域ごとに分離しています。
- ガス・石油系電力会社はセット販売 で消費者を囲い込む戦略をとっています。
昔は地域ごとに1社が独占していたのですが、今では 「発電・送電・小売が分離」 され、競争が進んでいるんですね。
電力業界のビジネスモデル
先に紹介した発電 → 送配電 → 小売の電気の流れごとに、この業界のお金の稼ぎ方について詳しくみていきましょう。
発電会社のビジネスモデル:電気をつくって売る!
発電会社は、発電した電気を 「卸売市場」(JEPX:日本卸電力取引所)や 「電力会社」 に販売して利益を得ます。
📈 利益の決まり方は?
発電コスト(燃料費・メンテナンス費)と 市場価格 の差で決まります。例えば、燃料が安いときは火力発電のコストが下がり、たくさん売れれば儲かります。でも、最近のエネルギー価格高騰で燃料費が上がると、利益が出にくくなるんですね。
特に 再生可能エネルギー の場合は、国の「固定価格買取制度(FIT)」があるので、一定の価格で売ることができます。つまり、政府が支えてくれる仕組みがあるわけです。
送配電会社のビジネスモデル:電気の「通行料」で稼ぐ!
送配電会社 のビジネスモデルです。電気は発電所で作られても、送電線や変電所を通らないと、家庭や工場に届きませんよね。ここで登場するのが 送配電会社 です。
💰 どうやって儲けるの?
国(経済産業省)が決めた料金を基に、「託送料金」 という 電気の通行料 を電力会社(小売業者)からもらいます。
つまり、送配電会社は、 「道路の通行料ビジネス」 と同じような仕組みなんですね。電気がたくさん流れれば、それだけ収益が増える仕組みです。ただし、送電線の維持費や台風・地震による設備修理費など、コストがかかることも多いんです。
③ 小売電気事業者のビジネスモデル:電気を仕入れて売る!
最後は 小売電気事業者 です。ここが、私たち一般消費者と直接関わる部分ですね。
📈 利益の決まり方は?
仕入れ価格(市場価格+託送料金) と 販売価格(電気料金) の差で決まります。
例えば、東京ガスやENEOSでんきなどの小売電気事業者は、発電会社やJEPX(卸電力市場)から電気を仕入れ、一般家庭や企業に販売します。ただし、電気の価格は市場の影響を受けやすいので、電気料金が高騰すると利益が減る こともあるんです。

実際、電力自由化が進んだものの、最近のエネルギー価格高騰で、撤退する小売業者も増えています。
電力業界の大手企業一覧
大手電力主要企業(通称「電力10社」)
- もともと地域ごとに電力の発電・送配電・小売を独占していた企業群です。
- 2016年の電力自由化で小売部門が競争市場になりましたが、依然として電力供給の中心を担っています。
- 発電・送配電・小売の全領域に関与し、電力業界の基盤を支える存在です。
企業名 | 地域 | 特徴 |
---|---|---|
東京電力ホールディングス(TEPCO) | 関東・静岡東部 | 日本最大の電力会社。福島第一原発事故の影響で経営改革を進める。再エネ・デジタル化に注力。 |
関西電力(KEPCO) | 近畿 | 原子力発電比率が高く、再稼働を進める。大阪ガスとの競争が激しい。 |
中部電力(CHUDEN) | 東海 | JERA(火力発電会社)を東京電力と共同設立。リニア中央新幹線向けの電力供給も。 |
東北電力 | 東北・新潟 | 再生可能エネルギー(特に風力・水力)に積極的。 |
九州電力(KYUDEN) | 九州 | 再生可能エネルギー比率が高く、特に太陽光発電の導入量が多い。 |
北海道電力(HEPCO) | 北海道 | 冬季の電力需要が大きく、寒冷地特有のエネルギー対策が必要。 |
中国電力(エネルギア) | 中国地方 | 石炭火力が強みだったが、脱炭素対応を急ぐ。 |
四国電力(YONDEN) | 四国 | 四国唯一の電力会社。四国の離島部にも安定供給。 |
北陸電力(RIKUDEN) | 北陸 | 水力発電の比率が高く、比較的安価な電力供給が可能。 |
沖縄電力(OKIDEN) | 沖縄 | 全国唯一の独立系電力会社。送電網が本州とつながっていないため、自前の発電が必須。 |
発電専業・再生可能エネルギー特化企業
- 電気を作ることに特化し、小売は行わない企業です。
- 火力・水力・風力・太陽光・地熱など特定分野に強みを持っています。
企業名 | 特徴 |
---|---|
JERA(ジェラ) | 東京電力・中部電力が共同設立。日本最大の火力発電事業者。LNG(液化天然ガス)事業も展開。 |
J-POWER(電源開発) | 国主導で作られた発電会社。水力・火力・風力発電に強い。 |
レノバ(RENOVA) | 再生可能エネルギー特化。太陽光・風力・バイオマス発電を展開。東京ガスが資本支援。 |
ユーラスエナジー | 豊田通商の完全子会社。16の国と地域で太陽光や風力など再生可能エネルギー発電所運営を展開。風力では国内No.1 |
オリックス | 太陽光発電では日本トップ級。蓄電所事業にも参入 |
東急不動産ホールディングス | 再生エネルギー事業「ReENE」を展開。国内で太陽光発電拠点を拡大中 |
新電力小売り・プラットフォーム企業
- 2016年の電力自由化 により、小売電気市場に参入した企業群です。
- 異業種からの参入や、設立から浅いベンチャーも多いのが特徴です。
- 価格競争・サービス競争が激化 し、電力高騰の影響で撤退する企業も増えています。
企業名 | 特徴 |
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イーレックス | 電力小売りが主力事業。2016年4月の電力全面自由化に伴い、家庭向け市場に参入。バイオマス発電所を保有。 |
UPDATER | 太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの供給プラットフォーム「みんな電力」を運営 |
ENECHANGE | 電力・ガス切り替えプラットフォーム「エネチェンジ」を運営。EV用充電器設置サービスを注力拡大 |
デジタルグリッド | 電力を生む事業者と電力を買う企業が直接売買できるシステムを備えた電力取引プラットフォームを提供 |
電力業界の将来性と課題
再生可能エネルギーを中心としたクリーンエネルギー市場は、世界規模で拡大しています。では、日本国内の動向はどうでしょうか。
再生可能エネルギーの拡大とその影響
再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。特に、太陽光発電や風力発電が増加していますが、これにはいくつかの課題も伴います。
- 火力発電所の稼働率低下:再生可能エネルギーが増えると、従来の火力発電所の稼働率が下がり、発電事業の利益が減少する可能性があります。
- 電力供給の不安定化:太陽光や風力は天候に左右されるため、安定した電力供給のためには、蓄電技術や他の電源とのバランスが重要となります。
電力自由化と新電力の動向
2016年の電力小売全面自由化以降、多くの新規参入企業、いわゆる新電力が市場に登場しました。しかし、最近の動向には注意が必要です。
- 新電力のシェア減少:2021年8月には新電力のシェアが22.6%に達しましたが、2023年8月時点では17.5%に減少しています。
- 事業撤退の増加:電力調達価格の高騰などにより、2022年には新電力の約2割が事業から撤退するなど、厳しい状況が続いています。
カーボンニュートラルとエネルギー安全保障
今、日本だけでなく世界中で「脱炭素」の流れが進んでいます。日本政府も2050年までにカーボンニュートラル(CO2排出ゼロ)を目指しています。これ自体はとても良いことですが、電力の安定供給とのバランスをどう取るのかが大きな問題なんです。
- 燃料価格の高騰:中東情勢の悪化や海上輸送の問題により、化石燃料の価格が高騰し、エネルギーの安定供給に影響を及ぼしています。
- サプライチェーンの強化:エネルギーの安定供給と脱炭素化を両立するためには、サプライチェーン全体でのセキュリティ確保が重要な課題となっています。

環境に優しくしながらも、安定的で安価な電気を供給する。このバランスをどう取るかが今後の大きなテーマになりそうですね。
電力業界の職種
電気はスイッチを入れると当たり前のようについていますよね。でも、その裏では、さまざまな職種の人たちが関わり、電力を安定して供給できるように支えています。
発電技術者
まず、電気がないと始まりませんよね。発電技術者は、発電所で電気をつくる仕事 をしています。発電所の安定稼働を支える、まさに“縁の下の力持ち” です。
- 主な仕事
- 火力発電、原子力発電、水力発電、再生可能エネルギーなど、さまざまな発電所の運営・管理
- 発電設備のメンテナンスやトラブル対応
- より効率よく発電できるように改善策を考える
送配電技術者
たとえば、台風や地震の後に停電が起きることがありますよね。その復旧作業を行うのが、この送配電技術者です。まさに、「電気のライフラインを守る仕事」 です。
- 主な仕事
- 送電線や変電所の点検・保守
- 停電が起きたときの復旧作業
- 送電の効率を上げるためのシステム開発
電力取引・需給管理
電気は「貯める」のが難しいエネルギーです。そのため、発電量と消費量のバランスをリアルタイムで調整することが求められます。このバランスを管理するのが、電力取引・需給管理の仕事です。
- 主な仕事
- 需要予測(天気や気温を見ながら、どれくらいの電力が必要か計算)
- 余った電力や足りない電力の売買(電力市場での取引)
- 発電所の稼働調整(電気が足りないときは発電量を増やす指示を出す)
営業・企画
企業向け、家庭向けに電力プランを提案するのが営業・企画の仕事です。最近では、「太陽光発電+蓄電池」のセット販売や、電気自動車(EV)と連携した電力サービスの提案など、新しいビジネスモデルの開発 も進められています。
- 主な仕事
- 企業向けに「電力プラン」を提案(工場やビルに最適な契約を提案)
- 家庭向けの電気料金プランの企画・販売
- 再生可能エネルギーや新規事業の企画立案

私たちの暮らしに欠かせない電気。その裏で、さまざまな専門家たちが支えているんですね!
電力業界に向いている人の特徴
「電気をつくる」「電気を運ぶ」「電気を安定させる」——電力業界の仕事は、一見すると単純なようで、実はとんでもなく奥が深いんです。
目立つより、支えるのが好き
電気というのは、「ちゃんと動いていて当たり前」 な存在です。誰も、「今日は電気が使えてありがたいなあ」とは思わない。だけど、停電が起こった瞬間に、みんな電気のありがたみを痛感します。つまり、この業界の仕事は、「目立たないように、完璧にこなすこと」 に価値があるんです。
慎重であることを、面倒くさがらない
電力業界は、「ミスが許されない仕事」の連続。たとえば、発電所で一つのスイッチを押し間違えただけで、地域全体が停電することもあります。送電線の点検を怠ると、トラブルが起きたときに復旧が遅れてしまいます。だから、どんなに細かくて地味な確認作業でも、「まあ、いいか」と思わずに 「念には念を入れる」 ことが求められる仕事です。
緊急対応のプレッシャーに耐えられる
電力は24時間365日、止まってはいけない。つまり、「トラブルが起きたら、すぐに対応しなければならない」 というプレッシャーがあります。
- 台風で電柱が倒れたら? → どんな天気でも、復旧作業に向かわなければならない
- 電力の需給バランスが崩れそうになったら? → すぐに判断し、最適な調整をしなければならない
- 大規模停電が起こりそうになったら? → 迅速に対応しなければ、経済や生活がストップする
こんな状況を想定し、いざというときに冷静に動ける人が、この業界で重宝されます。
チームプレーが好き
電気は、一人の力ではどうにもなりません。発電する人、送電する人、需給バランスを調整する人、設備を点検する人……それぞれの仕事がつながって、初めて成り立つビジネスです。
だから、現場では「報・連・相(報告・連絡・相談)」が徹底されているし、チームワークを何よりも重んじる文化があります。この業界では「自分さえよければいい」という考えの人は、かなり苦労するでしょう。

電力業界の人たちは、どんなに派手なエネルギー革命が起ころうとも、どんなに時代が変わろうとも、「電気を止めない」ことを、静かに、愚直に、大切にできる人が向いているのかもしれません。
まとめ
私たちは空気や水のように、電気がそこにあることを当たり前だと感じています。
ですが、「いつでも当たり前にある」は、発電所のオペレーターから、送電線の保守点検を行う技術者、そして緊急時に備える管理者まで、多くの人々が24時間365日、支えているから成り立っている。
「電気は、誰かの努力でつながっている」んです。
安定性と公共性を誇る電力業界の魅力、お分かりいただけたでしょうか。