半導体製造装置メーカーとは
現代人のブレーンを生み出す秘密道具
私たちの身の回りにあるスマートフォンやパソコン、家電製品、自動車など、ほとんどの電子機器には「半導体」が搭載されています。この半導体は、いわば電子機器の頭脳とも言える重要な部品です。
ところが、この半導体を作るのは、実はとても難しい工程なんです。例えると、まるでミクロの世界で超精密な彫刻を施すようなものです。
そのため、特別な「道具」が必要になります。その「道具」こそが半導体製造装置なのです。
半導体製造装置メーカーが解決している課題
半導体製造装置メーカーは、これらの装置を開発・製造し、Intel(インテル)やTSMC(台湾積体電路製造)、Samsung(サムスン)といった半導体メーカーに提供しています。
半導体メーカーが抱える課題は大きく分けて3つあります。
「微細化」の課題
例えば、スマートフォンの中に入っている半導体は、髪の毛の太さの数千分の1という超極小の回路で構成されています。このような精密な加工は人間の手作業では不可能です。半導体製造装置メーカーは、ナノメートル単位の超精密な加工を可能にする装置を提供することで、この課題を解決しています。
「歩留まり」の課題
半導体の製造工程は非常に複雑で、わずかなゴミや温度変化でも不良品が発生してしまいます。製造装置メーカーは、クリーンルーム内で安定して動作する高性能な装置や、不良を検出する検査装置を提供することで、この課題を解決しています。
「生産性」の課題
半導体の需要は年々増加していますが、製造には高度な技術と莫大な設備投資が必要です。製造装置メーカーは、自動化された効率的な製造装置や、複数の工程を一括処理できる装置を提供することで、この課題を解決しています。
最新のスマートフォンやAI(人工知能)の進化も、実はこの業界の技術革新があってこそ。半導体製造装置メーカーは、デジタル社会を支える縁の下の力持ちとも言える存在なのですね。

例えば、オランダのASMLという会社が開発したEUV露光装置は、世界で唯一の最先端半導体の製造を可能にする装置です。この装置がなければ、私たちが使っているスマートフォンはもっと大きく、電力消費も多いままだったかもしれません。
半導体製造装置メーカーのビジネスモデル
半導体製造装置メーカーのビジネスの収益構造は、大きく分けて3つの柱があります。
装置の販売
これが最も大きな収益源になっています。例えば、最先端のEUV露光装置1台の価格は、なんと200億円以上もします。そう、新幹線1編成分くらいの価格なんです。 もちろん、すべての装置がこれほど高額というわけではありませんが、一般的な製造装置でも数億円から数十億円の価格帯です。最先端の技術開発と高精度な部品が必要なため、必然的に高額なんです。
保守サービス
半導体製造装置は、一度販売したら終わりではありません。24時間365日、休みなく稼働し続ける装置には、定期的なメンテナンスが必要不可欠です。
具体的には、以下のようなサービスを月額や年額の保守契約として装置メーカーが請け負います。
- 定期点検
- 消耗品の交換
- ソフトウェアの更新
- 緊急トラブル対応
アップグレード
半導体の製造プロセスは日々進化しています。既存の装置に新しい機能を追加したり、性能を向上させたりするニーズが常にあります。このような改造や機能追加も、重要な収益源となっています。

例えるならば、高級車のディーラーのようなものです。車の販売だけでなく、定期点検やカスタマイズなど、継続的なサービスを提供することで、安定した収益を確保しているのと似ています。
半導体製造装置業界の業界分類
半導体の製造装置と一言に言っても、その種類や特長は様々です。半導体製造装置業界のプレイヤーを、3つの観点から分類してみましょう。
製造工程別の分類
- 前工程(ウェハープロセス)装置メーカー
装置 | 企業例 |
---|---|
露光装置 | ASML、ニコン、キヤノン |
成膜装置 | 東京エレクトロン、Applied Materials |
エッチング装置 | 東京エレクトロン、Lam Research |
イオン注入装置 | Applied Materials |
熱処理装置 | SCREEN |
CMP装置 | 荏原製作所、Applied Materials |
洗浄装置 | SCREEN、東京エレクトロン |
検査・測定装置 | KLA、日立ハイテク |
- 後工程(アセンブリ)装置メーカー
装置 | 企業例 |
---|---|
ダイシング装置 | ディスコ |
ワイヤーボンディング装置 | ASM Pacific |
パッケージング装置 | BESI、東芝機械 |
テスト装置 | アドバンテスト、テラダイン |
ビジネスモデル別の分類
メーカー分類 | 分類説明 | 企業例 |
---|---|---|
総合装置メーカー | 複数の工程に対応する装置を提供 | 東京エレクトロン、アプライドマテリアルズ |
専業装置メーカー | 特定工程に特化した装置を提供 | ASML(露光)、KLA(検査) |
顧客別の分類
メーカー分類 | 分類説明 | 特長 |
---|---|---|
ファウンドリ向けメーカー | 他社からの委託で半導体チップの製造を行う製造専業の半導体メーカーが顧客 | 最先端プロセス対応が必須、大量生産向けの装置が必要 |
IDM向けメーカー | 開発〜製造〜販売まですべてのビジネス機能を有する半導体メーカーが顧客 | カスタマイズ要求への対応が重要 |
パワー半導体向けメーカー | 鉄道や自動車に使われる高電圧に耐えうる半導体を製造するメーカーが顧客 | 特殊プロセスへの対応と高信頼性が要求される |
このように各企業の立ち位置で求められる技術力や競争戦略も異なることが分かります。
半導体製造装置業界の大手企業一覧
世界や日本で活躍する半導体製造装置メーカーにはどんな企業がいるのでしょう?主要企業とその特徴について見ていきましょう。
アプライドマテリアルズ(アメリカ)
- 世界最大の半導体製造装置メーカー
- 幅広い製品ラインナップを持ち、特に先端ロジック向け装置に強み
ASML(オランダ)
- 露光装置で世界シェアトップ、EUV露光装置で世界独占
- 最先端プロセス(3nm以下)に不可欠な存在

ラム・リサーチ(アメリカ)
- エッチング装置で世界トップクラス
- アジア市場での高いシェア

東京エレクトロン
- 日本最大、世界でも5本の指に入る半導体製造装置メーカー
- コータ・デベロッパーで世界トップ
- グローバルな顧客サポート体制

KLA(アメリカ)
- 検査・測定装置に特化し、世界トップ
- 歩留まり管理技術で優位性
- ソフトウェア技術も強み
アドバンテスト
- 半導体テスト装置で世界トップクラス
- 半導体メモリテスターで世界シェア約50%の首位

SCREEN
- 洗浄装置で世界トップクラス、独自の洗浄技術を保有
- 環境配慮型装置の開発に注力
ディスコ
- 半導体ウエハの切断装置、研削装置、研磨装置で世界シェア断トツ
- 装置と消耗品のダイヤ砥石が2本柱

日立ハイテク
- ウエハーの計測・検査や回路を加工するエッチングの装置で高いシェア
- 日立製作所が完全小会社化
ニコン
- 露光装置で世界大手
- 光学技術の蓄積で高付加価値品に強い

キヤノン
- カメラで有名だが、半導体・液晶製造用装置の大手。
- ナノインプリントと呼ばれる独自技術の次世代製造装置を開発

KOKUSAI ELECTRIC
- 半導体製造における成膜装置に特化
- バッチ成膜装置や膜質改善装置の分野では世界トップレベルのシェア
レーザーテック
- 先端半導体向けマスク欠陥検査装置が柱
- 顕微鏡の自動焦点装置を発明した歴史がある
- マスクブランクス検査装置ではシェア100%

半導体製造装置業界の将来性
日々進化する電子機器を支える重要な役割を担う半導体製造装置メーカーですが、この業界には大きな追い風となっている3つの大きなトレンドがあります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速
私たちの生活の中でAIが活躍する場面が増えています。実は、これらのAIを動かすために、より高性能な半導体が必要になっているんです。
- AIチップの需要増加
- データセンター向け半導体の需要拡大
- 高速通信(5G/6G)用半導体の需要増加
これらの需要に応えるため、半導体製造装置メーカーには新しい技術開発が求められています。
自動車の電動化・知能化
自動車業界で「100年に一度の大変革期」と言われていることをご存知でしょうか?電気自動車(EV)や自動運転技術の普及により、1台の車に使われる半導体の数が劇的に増えているんです。
- EVのパワー制御用半導体
- 自動運転用の処理チップ
- 車載センサー用半導体
これらの需要増加に対応するため、新しいタイプの製造装置が必要とされています。
地政学リスクへの対応
最近、「半導体の供給網を分散させる必要がある」という話をニュースで見かけることが増えました。これは、特定の地域に製造拠点が集中することのリスクが認識されたためです。
- アメリカでのIntel新工場建設
- 日本でのTSMC工場建設
- EUでの半導体製造強化
など、世界各地で新しい製造拠点の建設が進んでいます。これに伴い、製造装置の需要も世界中で高まっているんです。

これらのトレンドは、半導体製造装置メーカーにとって大きなビジネスチャンスとなっています。
半導体製造装置業界の課題
半導体製造装置業界が直面している共通の課題についても解説していきましょう。
開発費の高騰
半導体製造装置は、1つの装置を開発するのに数百億円規模の投資が必要です。しかも、より微細な加工が必要になり、装置の開発が複雑化しています。そのため、新しい技術開発にかかるコストも倍増しています。
サプライチェーンの課題
製造装置は数万点の部品で構成されていますが、その供給体制に問題が出ています。地政学的リスクによる部品調達の不安定化や、特定の部品メーカーへの依存からの脱却が経営課題となっています。
需要変動の課題
この業界は「シリコンサイクル」と呼ばれる景気変動の影響を強く受けます。好況時は供給が追いつかない程ですが、不況時は急激な需要減に。具体例を挙げると、2021年には半導体不足で装置の注文が殺到しましたが、2023年には一転して需要が急減したこともありました。
環境対応の課題
製造装置の稼働には大量の電力と水を使用します。そのため、電力消費量の削減要請や、水資源の有効活用など、省エネ型装置の開発が求められています。

これらの課題は、一朝一夕には解決できない難しい問題です。しかし、逆に言えば、これらの課題を解決できる企業こそが、今後の競争を勝ち抜いていけるということです。
半導体製造装置メーカーの職種
半導体製造装置メーカーで働く人々は大きく分けると、次のような職種があります。
研究開発職
「最先端の技術を生み出す」専門家たちです。
主な仕事:
- 新しい製造プロセスの研究
- 試作機の設計・評価
- 特許の出願
- 学会発表や論文執筆
求められる素養:
- 物理・化学・電気などの専門知識
- 粘り強い研究姿勢
- 英語力(海外の研究機関との連携も多い)
設計職
「装置の設計図を描く」エンジニアたちです。
主な分野:
- 機械設計:装置の構造設計
- 電気設計:制御系の設計
- ソフトウェア設計:制御プログラムの開発
求められる素養:
- CADなどの設計ツールの使用能力
- プログラミング能力
- 品質管理の意識
製造職
「高精度な装置を組み立てる」スペシャリストたちです。
主な仕事:
- 部品の組立
- 動作確認
- 品質検査
- 出荷前調整
求められる素養:
- 精密作業の技能
- 品質管理能力
- 安全意識
- トラブル対応力
フィールドエンジニア
「装置の設置とメンテナンス」を担当する技術者たちです。
主な仕事:
- 装置の設置・調整
- 定期メンテナンス
- トラブルシューティング
- 顧客への技術指導
求められる素養:
- 幅広い技術知識
- コミュニケーション能力
- 問題解決能力
営業職
「顧客との関係を築く」ビジネスパーソンたちです。
主な仕事:
- 装置の提案・販売
- 技術的な要求のヒアリング
- 価格交渉
- アフターフォロー
求められる素養:
- 技術的な理解力
- 交渉力
- プレゼンテーション能力
- マーケット分析力

他にも企業によって様々な職種が存在しますが、様々な専門性を持った人々が協力しながら最先端の製品を生み出しているのです。
半導体製造装置メーカー業界の特徴
半導体製造装置メーカーは、作っているものの特殊性や専門性から独特な文化を持っています。この業界で働く人々が大切にしている価値観について、ピックアップしてみましょう。
限界への挑戦
「もっと細く」「もっと速く」「もっと正確に」。半導体の世界は、常に限界に挑戦し続けています。できないと言われたことを可能にする。その執念にも似た探究心が、この業界の人々を突き動かしています。
品質に対する妥協のなさ
この業界の人たちは、人間の目では見えないほど小さな世界を相手にしています。髪の毛の太さの数千分の一という世界で、完璧な加工を実現する。0.1ミクロンの精度を追求する世界では、99%の完成度では足りません。最後の1%にこだわり続ける世界なのです。
「不良品を出してはいけない」という強い使命感
一台数億円、時には数百億円もする装置です。その装置が止まれば、顧客の工場全体に影響が及びます。だから彼らは、深夜でも休日でも、装置に問題が起きれば駆けつけます。それは単なる責任感ではなく、プロフェッショナルとしての矜持なのです。
お客様との独特な距離感
お客様である半導体メーカーとは形式的な上下関係ではなく、技術的な課題を一緒に解決するパートナーとしての関係。お互いにいなくてはならない存在だからこそ、その真摯な協力関係がこの業界の文化の根底にあるのです。

装置の性能が企業の命運を分けるこの業界には、他の業界にはない緻密さ・精巧さが求められます。でも、その厳格さの中に技術を愛する人々の誇りと情熱が息づいているのです。
半導体製造装置メーカーへの就職・転職に必要なスキル
半導体製造装置メーカーへの就職・転職に必要なスキルについて、体系的に解説していきます。
技術系職種の場合
まず押さえておきたいのが、理工系の基礎知識です。これが「肝」となります。学部によって専門領域は異なりますが、例えば以下のような技術知識です。
- 機械設計:3D CAD(SolidWorks, CATIA など)
- 電気・電子回路設計:基板設計、FPGA、マイコン制御
- ソフトウェア:PLC制御、Python, C++ などのプログラミング
- 材料工学:成膜技術、プラズマ技術、高真空技術
また、世界市場で存在感を発揮する半導体製造装置メーカーにおいて、語学力は強い武器です。
- 技術文書の読解、海外顧客・パートナーとのやり取りのための英語力
- TOEIC 600点以上が目安
事務系職種の場合
文系生でも、顧客や技術者と議論するためには業界知識が必須となります。
- 半導体の基本原理(Pn接合、バンドギャップ、MOSFETなど)
- 半導体デバイスの種類(ロジック、メモリ、アナログ、パワー半導体など)
- 半導体の製造プロセス(フォトリソグラフィ、エッチング、成膜、洗浄、CMPなど)
これは業界問わずですが、コミュニケーション能力も重要なスキルです。
- 技術者との対話力
- 顧客との折衝能力
- 社内調整能力
- 論理的な文書作成力

半導体製造装置は、一人の天才では作れません。物理を知る人、化学を知る人、機械を知る人、電気を知る人。様々な専門家の知恵が結集して、はじめて一つの装置が完成するため、「チーム」を大切にできることも極めて重要なスキルです。
半導体製造装置メーカーで働く魅力
グローバルなステージ
世界中の半導体メーカーが顧客となります。アメリカ、台湾、韓国、中国、ヨーロッパ。その活躍のフィールドは、世界中に広がっています。海外出張も多いですが、それもまた貴重な経験となるのです。
若手でも活躍できる風土
この業界では、年齢よりも技術力が物を言います。だから20代でも確かな技術と意見があれば、ベテランも真剣に耳を傾けてくれる空気があります。この実力主義も、大きな魅力です。
収入の安定性
半導体は、もはや現代社会のインフラ。その製造装置を作る仕事は、景気の波はあるものの、本質的に無くなることはありませんその安定感も、この業界の魅力の一つです。
知的好奇心を満たせる環境
物理、化学、機械、電気、ソフトウェア。様々な分野の最新知識が日々更新されていく世界です。学びたい人には、この上ない環境が用意されているのです。
人知れず世界を支えている誇り
スマートフォンやパソコン、自動車。彼らの作る装置は直接目に触れることはありませんが、世界中の人々の暮らしを、確かに支えています。この密やかな誇りが、この仕事の大きな魅力なのです。

装置の中では、1秒間に何百もの工程が行われています。ナノメートル単位の精度を追求しながら、世界でまだ誰も見たことのない技術を、自分の手で形にしていく。そんな業界の魅力を、お分かりいただけたでしょうか。