ペット用品メーカーとは
ペットを幸せにすることで”豊かさ”を提供する産業
まず、なぜペット用品メーカーという業界が存在しているのか。それは、人とペットの関係が大きく変化してきたことと深く関係があるんです。
かつてのペットは、番犬や害獣駆除のための猫など、実用的な目的で飼育されてきました。
でも現代は違います。ペットは『家族の一員』として認識されていますよね。この変化に伴って、ペットの健康や快適な生活への関心が高まり、そこからペット用品市場が大きく発展してきたんです。
特に注目したいのは、この業界の社会的役割です。ペット用品メーカーは単にモノを売っているわけではありません。
例えば、高齢者の方にとって、ペットは大切な話し相手であり、生きがいの源になっています。
単なる物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさも含めた、総合的な『生活の質の向上』を支援する産業なんです。
人とペットの幸せな関係を作る
続いてはペット用品メーカーが解決している課題と、提供している価値について考えていきましょう。
まず、飼い主さんの課題です。 『ペットの健康管理をしたい』『清潔な環境を保ちたい』『仕事で留守にする時も安心して飼育したい』といった切実な悩みを持っています。
そして、実はペット自身にも様々な課題があるんです。『室内飼育によるストレス』『運動不足』『加齢による体の不調』などです。
もちろんペットは自分の困りごとを言葉で伝えられませんから、ペット用品メーカーは獣医師や動物行動学の専門家と協力して、ペットの視点に立った製品開発を行っています。
では、具体的にどんな価値を提供しているのか、分野別に見ていきましょう。
- 健康管理
- 年齢や健康状態に合わせた専用フード
- 関節ケアのサプリメント
- 歯垢除去おもちゃ
- ペットのQOL(生活の質)向上
- ストレス軽減のための知育玩具
- 快適な睡眠を支援するベッド
- 安全な移動を実現するキャリー
- 飼い主の飼育サポート
- 消臭・抗菌機能付き製品
- IoT活用の見守り製品
- 省力化できる衛生用品

例えば、自動給餌器という製品があります。これは単なる餌やり機械ではありません。飼い主さんの『留守中もきちんと食事の時間を守ってあげたい』という思いに応える製品なんです。ペット用品メーカーは『人とペットの両方の課題』に取り組み、両者にとっての価値を生み出しているんですね。
ペット用品メーカーの市場
具体的にペット用品にはどんな市場があるのか、見ていきましょう。
フード専業メーカー
ペットの健康志向の高まりから、プレミアムフードや機能性フード、年齢に合わせた商品など、人間の食品市場に近い多様化が進んでいます。
- 例
- 動物種別専門(犬、猫、小動物、爬虫類・両生類)
- プレミアムフードに特化
- 特定機能性フード専門
用品専業メーカー
ペットの清潔で快適な生活に欠かせない製品群です。
- 例
- 衛生用品専門(デオシート等のトイレ用品)
- ペット家具・ケージ専門
- おもちゃ・アクセサリー専門
総合ペット用品メーカー
フードから衛生用品、ヘルスケア用品など手広く製品展開しています。また、ペット専業ではなく事業展開をしている企業も多く存在します。
- 例
- 人間用品メーカーからの参入
- 食品メーカーからの参入
ペット用品には、人間の用品と比べて『継続的な購入』が多いという特徴があります。例えばフードは毎月必要ですし、トイレ用品も定期的に購入が必要です。つまり、安定的な収益が見込めるビジネスモデルと言えます。

特に注目したいのが『単価』です。例えば、プレミアムフードは通常のフードと比べて2倍以上の価格差があることも。なぜこんなに差があるのでしょうか?それは、飼い主さんの『ペットへの投資意欲が高い』という特徴があるからなんです。実際、景気後退期でも、ペット関連支出はあまり減少しない傾向にあります。
ペット用品メーカーの主要企業
日本国内のペット用品の主要企業について、特徴とともにご紹介します。
ユニ・チャーム
- 国内最大手で、特に犬猫用のペットフードとペットトイレタリー製品が強み
- 人間用品で培った技術を活かした高付加価値商品に強み
- 独自の販売網と強力なマーケティング力を持つ

マース
- グローバル企業で、ペットフード世界2強の一つ
- アイムス、カルカン、シーザーなどの高級ペットフードブランドを展開
ネスレ
- 世界最大のペットフードメーカー
- ピュリナワン、プロプランなど高級ブランドを展開
- 研究開発力が強みで、グローバルな研究施設を保有
ヒルズ・ペット・ニュートリション
- 獣医師推奨の療法食で圧倒的なシェア
- 動物病院チャネルでの強固な販売網
- 「サイエンス・ダイエット」のブランド力が強い
ペットライン
- 三菱グループの国産ペットフードメーカー
- 日清ペットフードの事業を譲り受け規模拡大
- 独自の商品開発力が強みで幅広いブランド展開

ドギーマン
- 犬猫用おやつ、玩具などのペット用品総合メーカー
- 商品開発力と多様な製品ラインナップが特徴
- 中小ペットショップとの強い関係性を持つ

アイシア
- 猫用品専門メーカーとして強いブランド力を持つ
- マルハニチロが親会社
- 猫の嗜好性研究に特化

ペティオ
- 総合ペット用品メーカー
- 犬猫用品から小動物用品まで幅広く展開
- 実用的で手頃な価格帯の製品が中心

ジェックス
- 観賞魚用品、爬虫類、小動物用品に強み
- 観賞魚、水槽用品では国内トップクラス
- 技術開発力と専門性の高さが特徴

ペット用品業界は、それぞれ得意分野を持って棲み分けていて、特定カテゴリーに特化した専門メーカーの存在感も強い点が特徴的です。
ペット用品メーカーの将来性と課題
ペット用品業界について、大変興味深い動きがいくつもあるんです。
今日は特に注目すべき3つのトピックスについて見ていきましょう。
ペットの高齢化対応
実は、ペットも人間社会と同じように高齢化が進んでいます。なぜでしょうか?
その背景には、ペットの医療技術の進歩と室内飼育の増加により、ペットの寿命が延びているという理由があります。そのため、高齢ペット用の介護用品やシニア向け機能性フードといった市場が急速に拡大しています。
テクノロジーの活用
最近では、ペット用品にもデジタル化が進んでいて、スマートフォンアプリを通じたサービス提供も増えています。
- 例
- AIカメラで留守中のペットを見守るシステム
- 食事量や運動量を記録するスマートデバイス
- 健康状態を監視するウェアラブル機器
特に注目なのは、これらのデータを獣医療と連携させる動きです。病気の早期発見や予防医療につながることが期待されています。
カスタマイズサービスの進展
一つの製品を大量生産するという従来のモデルから、『個々のペットに合わせた製品を提供する』という新しいモデルへの転換が進んでいます。
- 例
- ペットの体格や年齢に合わせたサプリメントのカスタマイズ
- アレルギー対応食の提供
- 行動特性に応じた玩具の提案
このように、ペット用品業界は『問題解決型』から『価値創造型』のビジネスへと進化しつつあるんです。
一方この業界にも、いくつかの重要な共通課題があります。
市場の成熟化と人口動態の変化
実は日本では、ペット飼育世帯数が徐々に減少傾向にあるんです。その背景には、少子高齢化による飼育層の減少、集合住宅の増加による飼育制限などの社会生活の変化があります。
これは業界にとって深刻な問題。
そのため、各企業は新しい価値提案の必要性が増しているのです。
原材料価格の高騰
これは特にフードメーカーにとっては深刻な問題です。
- 原材料の国際価格上昇
- 輸送コストの増加
- 為替変動リスク
といった情勢がダイレクトにビジネスへ影響しています。
規制強化への対応
ペット用品の安全性や品質に関する規制は、年々厳しくなっています。
- 原材料の安全性基準の引き上げ
- 製品表示の厳格化
- 環境負荷に関する規制
これらへの対応には、多大なコストと時間がかかります。

勝機と課題は表裏一体で、複合的に絡み合っています。そのため、単なる問題対応ではなく新しいビジネスチャンスに転換していくことが業界として求められているんです。
ペット用品メーカーの職種
ここからペット用品メーカーの代表的な職種について挙げていきます。
製品開発部門
ペットと飼い主の両方のニーズを理解しながら、獣医師や動物行動学の専門家と連携して製品を生み出します。
- 商品企画担当
- ペットの行動分析
- 市場調査の実施
- 新商品のコンセプト設計
- 研究開発職
- 素材の研究
- 動物栄養学の専門家
- 安全性試験の実施
製造部門
ペットの健康に直接関わるため、ここでは品質管理が特に重要になります。
- 生産管理職
- 製造ラインの管理
- 品質管理の徹底
- 生産計画の立案
- 品質管理職
- 原材料のチェック
- 製品検査の実施
- 安全基準の遵守
販売・マーケティング部門
ペットに関する専門的な知識に基づいて、各関係者へ自社のブランドや製品を知ってもらう活動をします。
- 営業職
- ペットショップ担当
- 動物病院ルート営業
- EC事業担当
- マーケティング職
- ブランド戦略の立案
- SNS運用
- 顧客データ分析

動物に関する行動学や営業学、製品安全に関する知識,,,,この業界は意外と専門的なんです。だから『ただペットが好き』なだけでなく、ビジネスとしての理解と専門性を持ってみなさん働かれているんですね。
ペット用品業界の文化・特徴
ペット用品業界で活躍する人々には、独特の価値観や考え方が息づいています。
一例をご紹介しましょう。
うちの子自慢
基本はみんなペット好き。だから昼休みの話題は、スマートフォンの待ち受け画面を見せ合いながら、『うちの子』の健康管理や最新のペットグッズの情報交換が盛り上がります。
ペットの気持ちになる
商品開発の現場では、人間用の新製品を試す光景はよく目にしますが、この業界では開発者自身がペットフードを試します。床に這いつくばって新しいペット用ベッドの心地よさを確かめる開発担当も…まれにいるのかも。
社内に動物はあたり前
他の業界では珍しい光景ですが、商品テストなどを実施するため社内に動物がいることが日常茶飯事。それゆえ、訪問者や社員が自分のペットを連れてくることが歓迎される文化があります。社員の机の引き出しには、人間用のお菓子と一緒にペット用おやつが常備されていると言います。
匂いセンサーが敏感
この業界の人々は『匂い』に異常なまでの敏感さを持っています。新商品の開発会議では、「この消臭効果は、柴犬の場合だとどうだろう」「猫砂として、この香りは強すぎないか」といった会話が、真剣に交わされるそうです。

この業界で働く人たちは、自然と『動物目線』で世界を見ているのですね。だからペット用品業界には、命への敬意と愛情に満ちた、独特の文化が育まれているのだと思います。
ペット用品業界に向いている人とは
ペット用品メーカーのエンドユーザーは言葉を話せません。だからこそ、この業界の人たちは想像力や観察眼、データを駆使してものづくりを追求しています。
ペット用品業界への就職や転職を考える人向けに、重要な価値観や姿勢をご紹介します。
命の重さを知っている
たかがペット用品、されどペット用品。一つの商品が、生き物の健康や命に直結することを、心の底から理解している人でなければなりません。高品質な製品を作りたいが、価格は抑えたい。そんな綱引きに悩みながら、それでも安全は譲れない人たちです。
完璧主義すぎない
完璧な解決策を求めすぎると、その多様性に対応できなくなってしまうことがあります。ペットの数だけ個性があり、飼い主の数だけニーズがある。むしろ、一つひとつの課題に柔軟に向き合える人の方が、長く活躍できるようです。
『なぜ』を大切にする
なぜこの製品が必要なのか。なぜこの設計なのか。なぜこの価格なのか。データを読み解き、客観的な視点も持ち合わせている人が向いている仕事です。今は元気なペットも、いつかは年を取る。その時に何が必要になるのか。そんな未来まで想像した先に、ペットと飼い主の幸せを描いているのです。
この業界の方々は誰かの大切な家族のために日夜研究しているんですね。

そして新商品を開発して市場に出した時、まず喜んでくれるのはペットたち。そして、そのペットの喜ぶ姿を見た飼い主さんが、また嬉しそうな顔を見せてくれる。この2重の喜びはこの業界ならではの醍醐味なのかもしれません。
まとめ
例えば、ある会社では新入社員研修で、実際にペットの飼育体験をするそうです。
それは、『ペットの気持ちと飼い主の気持ち、両方を理解することが大切』だと考えているからなんですね。
そう考えると、ペット用品メーカーの人々は、ビジネスという枠を超えて『生きる命への愛』をもって仕事をしているように見えます。
人とペットの一生を豊かにする仕事の魅力、お分かりいただけたでしょうか。