SIer業界とは
SIer=『システムを統合する人』
そもそも、SIerは「System Integrator」(システムインテグレーター)という英語の略称です。では、なぜこのような名前が付いたのでしょうか?
「System」は「システム」、「Integrator」は「統合する人」という意味です。つまり、「システムを統合する人」という意味なんです。
具体例で説明しましょう。
例えば、ある会社が業務に利用するシステムを導入しようとします。
- サーバー(コンピューター本体)
- ネットワーク機器
- データベースソフトウェア
- 業務用アプリケーション
などが必要になります。これらのツールは、それぞれ違うメーカーが作っています。
これらバラバラのツールを、一つの使いやすいシステムとして「統合(Integrate)」するのが、SIerの仕事なんです。

なお、発音は「エスアイアー」が一般的です。中には「サイヤー」と発音する人もいますが、日本では「エスアイアー」という呼び方が定着しています。
SIerの存在意義
なぜSIer業界が存在するのか、その根本的な理由から説明しましょう。
現代のビジネスではITシステムが不可欠です。しかし、多くの企業にはIT専門家が不足しています。
そこで、SIerは「お客様のビジネスの課題をITで解決する」という重要な役割を担っているんです。
たとえば、こんな状況を想像してみてください。
【とあるスーパーマーケットチェーンが、全店舗の在庫管理と売上管理を効率化したいと考えている。「とにかく効率的なシステムが欲しい」という希望はあるものの、具体的にどうすればいいかわからない…。】
そこでSIerは以下のような動きします。
- まず経営者の話をじっくり聞き、本当の課題を理解する
- 課題解決のための最適なシステムを提案
- 必要なハードウェアやソフトウェアを選定し、組み合わせる
- システムを開発し、導入する
- 導入後の運用とメンテナンスとサポートをする
SIer業界は現代のビジネスにとって、いわば「ITの総合商社」とも言える存在なのです。
特に日本では、カスタマイズされた独自システムへのニーズが高く、それに応えるためにSIer業界が発展してきました。企業のDX化が進む中で、その重要性は今後さらに高まっていくでしょう。
また、SIerの根幹の価値は「顧客のビジネスを止めない」ことにあります。
近年、システム障害により銀行ATMが使えないといったニュースを時折目にしますが、現代のビジネスではITシステムが止まると、ほとんどの業務が滞ってしまいます。SIerは、そんな事態を防ぎ、顧客の事業継続を支えているのです。
SIer業界のビジネスモデル
SIerの収益構造は大きく分けて3つの柱があります。順番に見ていきましょう。
システム開発による収益
これが最も基本的な収益源です。例えば、ある企業から「基幹システムを刷新してほしい」という依頼を受けたとします。このプロジェクトの流れと収益のポイントを見てみましょう。
- 要件定義
- 「どんなシステムを作るのか」を決める重要な段階です。ここで100人月(1人が1ヶ月働く工数)かかるとすると、1人月100万円として1億円の収益になります。
- 設計・開発
- 実際にプログラムを書いて、システムを作ります。例えば500人月かかるとすると、1人月80万円として4億円の収益になります。
- 運用・保守
- システムは作って終わりではありません。毎月の運用・保守費用として、開発費用の15~20%程度を継続的に請求します。先の例で言えば、年間で1億円程度の安定収益になるんです。
- ハードウェア・ソフトウェアの販売収益
- システムには、サーバーやパソコン、データベースソフトなどが必要です。これらを顧客に販売する際に、仕入れ価格と販売価格の差額が収益になります。
また、SIerの多くは「多重下請け構造」と呼ばれる仕組みで事業を行っています。
例えば、NTTデータのような大手SIer(元請け)が受注したプロジェクトの一部を、中堅SIerに委託し(一次下請け)、さらにその一部を小規模SIerに委託する(二次下請け)という具合です。
この構造のメリットは、繁閑の差が大きい開発案件に柔軟に対応できることです。ただし、各段階でマージンが発生するため、最終的なコストは高くなりがちです。
サブスクリプション型
システムを自社で開発・保有し、それを多くの顧客に月額利用料として提供するものです。初期投資は大きいものの、顧客が増えれば収益性は高くなります。
コンサルティング型
単なるシステム開発ではなく、経営戦略からデジタル化の方向性を提案し、より高い付加価値で収益を上げる方式です。
最近では、クラウドサービスの普及で従来型の開発案件が減少傾向にある一方、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の新しい需要も生まれています。そのため、多くのSIerは収益モデルの転換を模索している状況とも言えるでしょう。
SIerの主な提供サービス・業務内容
大きく分けると、5つの主要なサービスがあります。順番に見ていきましょう。
スクラッチ開発
「スクラッチ」とは「ゼロから」という意味です。つまり、システムを一から作り上げる方法です。
例えると、「注文住宅を建てる」ようなものです。お客様の希望を聞いて、間取りから内装まで、全てオーダーメイドで作っていきます。
パッケージカスタマイズ
パッケージカスタマイズは、既製品のソフトウェア(パッケージ)を、お客様の要望に合わせて調整する方法です。
パッケージカスタマイズ開発でよく使用されるシステムパッケージは以下のようなものです。
システムの分類 | パッケージ例 |
---|---|
基幹系システム(ERP) | SAP ERP、Oracle ERP Cloud、Microsoft Dynamics 365 |
会計システム | 勘定奉行、弥生会計 |
人事給与システム | COMPANY、PeopleSOFT、POSITIVE |
販売管理・CRM | Salesforce、Hubspot、kintone |
生産管理システム | EXPLANNER、MCFrame |
物流管理システム(WMS) | LOG MANAGER、LXWARE |
グループウェア | Microsoft 365、サイボウズ Office |
例えると、「建売住宅の間取りを少し変更する」ようなものです。基本は出来上がっているけれど、壁の位置を少し動かしたり、設備を変更したりして、住む人の希望に近づけていきます。
インフラ構築サービス
これは、システムの「土台」を作るサービスです。
- 具体例
- サーバーやネットワーク機器の設置
- クラウド環境の構築
- セキュリティ対策の実施
最近では、オンプレミス(自社でサーバーを持つこと)からクラウドへの移行支援も重要なサービスになっています。
運用・保守サービス
これは「システムの健康を守る」サービスです。
- 24時間365日のシステム監視
- 定期的なメンテナンス
- 障害が起きた際の対応
- システムの改善提案
例えば、大手小売チェーンのPOSシステムが真夜中に突然停止した場合、すぐに対応できる体制を整えるといったサービスです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)支援サービス
これは比較的新しいサービスです。
- AIやIoTの導入支援
- データ分析基盤の構築
- モバイルアプリの開発
- 業務プロセスのデジタル化
例えば、従来は紙で行っていた申請作業を全てデジタル化し、承認までの時間を大幅に短縮する、といったプロジェクトを手がけます。

これらのサービスは単独で提供されることもありますが、多くの場合は組み合わせて提供されます。
SIer業界地図
SIer各社は特徴や強みによって、市場でのポジショニングが異なります。
3つの切り口で業界を捉えてみると、以下のように分類できます。
【企業の成り立ちによる分類】
分類 | 企業例 |
---|---|
ユーザー系SIer | • NTTデータ • 野村総合研究所 • SCSK • 伊藤忠テクノソリューションズ |
メーカー系SIer | • 富士通 • NEC • 日立製作所 |
独立系SIer | •TIS •富士ソフト ・ネットワンシステムズ |
【得意分野による分類】
分類 | 企業例 |
---|---|
金融特化型 | • NRI(証券・資産運用系) • みずほ情報総研(銀行系) |
製造業特化型 | • 富士通 • 日立製作所 |
公共・社会インフラ特化型 | • NTTデータ • 富士通 |
流通・サービス特化型 | • TIS • SCSK |
【提供サービス形態による分類】
分類 | 特徴 |
---|---|
フルラインSIer | システムの企画から開発、運用まで全て提供 |
開発特化型SIer | システム開発に特化 |
インフラ構築特化型 | ネットワーク・サーバー構築が主体 |
コンサルティング型SIer | 上流工程(企画・設計)に強み |
SIer業界の主要企業
SIer業界の主要企業とその特徴を紹介していきましょう。
IBM
- 各国の大型システム案件を手掛ける世界大手
- ソフトウェア、コンサルティング、ITインフラの3本柱

アクセンチュア
- ITサービスでは世界首位
- クラウドやセキュリティサービスに注力
- 通信、メディア、テクノロジー、金融、医療、製造業、エネルギーと幅広い業種に対応
NTTデータ
- 旧電電公社から分離した歴史を持ち、官公庁・金融向けに強み
- システム構築専業で国内最大手
- 積極的な海外M&Aで、グローバル展開を推進

富士通
- ハードウェアからソフトウェアまでの総合力が強み
- 国内トップクラスで官公庁・金融向けに強い
- スーパーコンピュータ「富岳」の開発実績

日立製作所(IT部門)
- 製造業向けソリューションが強み
- IoT、AI、ビッグデータ分析に注力
- 「Lumada」というデジタルソリューションプラットフォームを展開

NEC
- 通信インフラ国内首位
- 官公庁・通信事業者向けに強み
- 顔認証など生体認証や企業・行政のDX支援を強化

野村総合研究所(NRI)
- 証券・金融分野で圧倒的な強み
- コンサルティングとITソリューションの融合が特徴
- 大手企業と直接取引する一次SIerとして高い利益率を維持

SCSK
- 住友商事グループのIT企業
- 製造業・流通業向けに強みを持つ
- 自動車業界向けソリューションで高いシェア

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)
- 商社系SIerの強みを活かした幅広い顧客基盤
- シスコシステムズなど海外ベンダーとの強い関係
- インフラ構築・運用に強み
- クラウドインテグレーションで高い実績

TIS
- 独立系SIerの大手。
- スマホ決済関連システムで高いシェア
- クレジットカード業界向けシステムに強み

SIer業界の将来性と課題
SIerは単なるシステム開発会社ではなく、顧客のビジネスの成功を支える「ビジネスパートナー」としてますます重要なポジションを担っています。
業界の成長性を感じるトピックスをいくつかご紹介しましょう。
DXの本格化
「デジタルトランスフォーメーション」、略してDXという言葉を聞いたことがあると思います。
実は日本企業のDX投資は、まだ始まったばかりなんです。経済産業省の調査によると、日本企業の約7割がDXにまだ着手できていないと言われています。

老舗の製造業では、いまだに紙の注文書で受発注をしていたり、在庫管理も手作業という会社が少なくありません。これらのデジタル化需要は、今後10年以上続くと予想されています。
クラウドネイティブ化の波
従来、企業は自社でサーバーを持つ「オンプレミス」が主流でした。しかし今、多くの企業が「クラウド」に移行しようとしています。
この移行作業は自社内で完結できるほど単純ではありません。例えば、
- 古いシステムをクラウドに移行する方法の検討
- セキュリティの確保
- 社内の運用ルールの見直し
これらすべてにSIerの専門知識が必要となるからです。
セキュリティ需要の高まり
サイバー攻撃が年々巧妙化しており、多くの大手企業がサイバー攻撃の被害に遭っています。
そのため、
- セキュリティ診断
- 対策システムの導入
- 従業員教育
といった包括的なセキュリティサービスへのニーズが高まっています。
新技術への対応
次々と登場する新技術への対応も、大きなビジネスチャンスです。
- AI(人工知能)の活用
- IoTによる工場の自動化
- ブロックチェーン技術の活用

特に最近では、ChatGPTに代表される生成AIの企業活用について、多くの相談が寄せられているそうです。
レガシーシステムの刷新需要
日本企業には、20年以上前に作られた古いシステムがまだ多く残っています。
これらは、
- 保守費用が高い
- 新しい技術との連携が難しい
- 運用知識を持つ人材が退職している
という問題を抱えています。これらのシステムの刷新需要は、今後10年以上続くと見られています。
このように、多くの成長機会がある一方で、SIer業界が抱える共通の課題もあります。
技術者不足と人材の高齢化問題
これは業界最大の課題と言えます。例えば、あるSIer企業では、COBOLという古い言語で書かれた基幹システムの保守を行っていますが、この言語を扱える技術者の平均年齢が55歳を超えているんです。若手技術者は最新の言語は習得していても、古い言語は学びたがらない。でも、そのシステムは今でも動いているので、保守は必要なんです。
また、最新技術についても、AI技術者が圧倒的に不足している、セキュリティ専門家の不足といった状況に直面しています。
多重下請け構造の問題
先ほども触れたように、日本のSIer業界には「多重下請け」という独特の構造があります。
この構造により、
- 最終的なコストが高くなる
- 品質管理が難しくなる
- 現場の技術者の待遇が悪化する
といった問題が生じています。
働き方改革への対応
かつてのSIer業界では「納期に間に合わせるためなら徹夜も当たり前」という文化がありました。しかし、今は残業時間の上限規制や柔軟な働き方への対応が求められています。
この変化に対応しながら、いかに生産性を上げるかが大きな課題となっています。
品質管理の難しさ
システムの大規模化・複雑化により、品質管理の難易度が非常に上がっています。
- システムのトラブルが社会に与える影響が大きくなっている
- テストの工数が増大している
- 新旧システムの連携が複雑になっている
といったことがこの背景にはあります。
これらの課題に対して、業界では様々な取り組みが始まっています。
- 取り組み例
- アジャイル開発の導入
- テレワークを前提とした開発環境の整備
- 高度IT人材の育成プログラムの強化
- ローコード/ノーコード開発の活用
- 品質管理プロセスの見直し

これらの課題の多くは構造的なものであり、短期間での解決は難しいと言われています。業界全体での継続的な取り組みが必要とされているのです。
SIer業界の職種と仕事内容
SIer業界には実に様々な職種の人々が働いています。具体的に見ていきましょう。
プロジェクトマネージャー(PM)
プロジェクトの指揮官と言える存在です。
- 主な仕事内容
- 予算・スケジュール管理
- チームメンバーの割り当て
- 顧客との折衝
- リスク管理
プロジェクトの成功を左右する重要な職種です。大規模なプロジェクトになると、数十億円の予算と100人以上のチームを率いることもあります。
システムエンジニア(SE)
システムの設計者です。会社によっては、上流と下流で役割分担することもあります。
- 主な仕事内容
- 顧客の要望ヒアリング
- システムの全体設計
- 予算・工数の見積もり
- 詳細設計
- プログラマーへの指示だし
- テスト計画の立案
プログラマー(PG)
実際のプログラムを書く人たちです。
- 主な仕事内容
- Javaでのアプリケーション開発
- データベースの構築
- テストプログラムの作成
インフラエンジニア
システムの土台を作る専門家です。
- 主な仕事内容
- サーバーの設計・構築
- ネットワークの設計・構築
- セキュリティ対策
ITコンサルタント
経営とITの橋渡し役です。
- 主な仕事内容
- 経営戦略の提案
- IT投資の計画立案
- 業務改革の提案
QAエンジニア
「品質の守護者」とも言える存在です。
- 主な仕事内容
- テスト計画の立案
- 品質基準の策定
- 不具合やバグの発見と管理
営業職
顧客への提案や交渉を担当します。ビジネスの最前線で活動します。
- 主な仕事内容
- 新規顧客の開拓
- 提案資料の作成
- 見積書の作成
- 契約交渉
こうした職種の他にも、技術の進展によって新しい職種が続々と生まれています。
- 例
- データサイエンティスト
- クラウドアーキテクト
- AIエンジニア
- スクラムマスター
SIer業界には様々な職種があり、それぞれが専門性を活かしながら、一つのプロジェクトを完遂させているんです。技術の進化とともに、必要とされる職種も変化し続けているのが、この業界の特徴と言えます。
SIer業界の文化と特徴
この業界には、エンジニア集団ならではの文化が存在します。実際の仕事の様子も交えながらお話ししていきましょう。
朝会
プロジェクトが始まると、毎朝9時、チーム全員が会議室(もしくはオンライン)に集まります。「今日は何をするか」「困っていることはないか」を15分程度で共有するんです。一見、効率的な習慣に見えますが、実はこの朝会、皆の本音が垣間見える場所でもあります。

「はい、私は今日もバグ修正です…」そう言う若手エンジニアの声には、少し疲れが混ざっています。昨日見つけたバグの修正で、終電近くまで残業したようです。でも、それを心配した先輩が「じゃあ、一緒に見てみようか」と声をかける。厳しそうに見える先輩たちも、実は後輩の成長を気にかけているんです。
「不可能ではない」
時々、営業から「この機能、すぐに実装できない?」などと言われても、安易には「はい」と答えません。その代わり、「技術的には不可能ではないですが…」と前置きしつつも、こう答えます。
「実装できますが、サーバーの負荷が急上昇する可能性が…」
「実装は可能ですが、障害時の復旧作業が非常に複雑になります…」
「技術的には可能ですが、個人情報保護の観点で…」
システムは生き物のように複雑で、一つの変更が思わぬ場所に影響を及ぼすことがあるからです。エンジニアがこう言う時は、実は「やるべきではない」というメッセージを、丁寧に包んで伝えようとしているケースが多いんです。
仕様凍結
これは「もう仕様は変更しません」という意味なのですが、実際には「仕様凍結後の仕様変更」という珍現象が頻繁に起こります。お客様から「ちょっとした追加なんだけど…」と言われると、エンジニアたちは内心「えーっ」と思いながらも、表情を変えずに「検討させていただきます」と答える。これぞプロフェッショナル。
レビュー文化
書いたプログラムは、必ず誰かにチェックしてもらいます。新人が書いたコードを部長がレビューすることもあります。普段は優しい部長も、レビューの時は容赦なく指摘します。「この変数名は分かりづらい」「ここはもっと効率的に書ける」。でも不思議なことに、レビューを受けた人は、その厳しさに感謝するんです。それだけ的確に見てもらえるということですから。
SIer業界に向いている人とは?
次はSIer業界に向いている人の考え方について、紐解いていきましょう。
完璧を目指すが、完璧は諦める
矛盾しているように聞こえますが、この考え方ができる人は、SIerの世界でとても重宝されます。なぜなら、「システムは絶対に止まってはいけない」という前提がありながらも、同時に、「バグゼロのシステムは存在しない」からです。だからこの業界の方達は考えられる限りのテストをする一方で、「問題が起きた時の対応手順」も周到に整備しているのです。
細部にこだわりつつ、全体を見失わない
プログラミングって、ある意味アートです。どれだけ美しく書けるか、効率的に書けるか。でも、締め切りに間に合わないような完璧主義は、むしろ害になる。その塩梅が分かる人が、良いエンジニアになれるんです。

「コードの美しさを追求するのは大切。でも、それより大切なのは、期限内にシステムを動かすことだ。」一緒に働いたことのあるベテランエンジニアの金言です。
人の話を、言葉の裏まで聴ける
お客様が「このシステムは使いにくい」と言った時、実は違う意味が隠れていることがあります。 「操作が複雑」なのか、「画面の応答が遅い」のか、それとも「必要な機能が足りない」のか。 言葉の裏にある本当の要望を読み取れる人は、とても重宝されます。

新人の頃、私の先輩がこんなことを言っていました。 「お客様が『すぐに欲しい』『安く作りたい』『高品質が必要』って言ってきたら、どれを一番優先するか、一緒に考えるんだ」その時は何を言っているのか分かりませんでしたが、今なら分かります。
問題を自分ごととして捉える
「このバグ、私の担当部分じゃないから…」こういう考え方の人は、長く続きません。 システムは、たくさんの部品が複雑に絡み合って動いています。だから、問題が起きたら、担当外でも「自分に何かできることはないか」と考える人が必要なんです。
SIer業界で活躍する人には、一見相反する要素を併せ持つという特徴があるようです。それがこの業界の「プロフェッショナリズム」なのかもしれません。
SIer業界へ就職・転職するために必要なスキル
SIer業界で必要なスキルと能力について、体系的に解説していきます。
基礎的なスキル・能力
- 論理的思考力
- フローチャートを正確に読み書きできる
- 物事を順序立てて説明できる
- 原因と結果の関係を的確に分析できる
これは最重要項目です。なぜならば、システムとは「論理の塊」だからです。
- コミュニケーション能力
- 曖昧な表現を明確に質問できる
- 専門用語を平易な言葉で説明できる
- 文書で論理的に考えを伝えられる
お客様の要望を「察する」のではなく、「正確に把握する」必要があります。これらができないと、要件定義の段階で躓いてしまいます。
- 基礎的なIT知識
- ハードウェアの基本構成
- ネットワークの基礎知識
- データベースの基本概念
世の中の検定で言えば、ITパスポート試験に受かるレベルが基準です。
技術的スキル
- プログラミング言語
- Java:業務システムで最も使われる言語
- JavaScript:Web系開発で必須
- SQL:データベース操作に不可欠
少なくとも1つは実務レベルで書けることが求められます。
- 開発手法の理解
- ウォーターフォール開発
- アジャイル開発
- プロトタイプ開発
これらの特徴と使い分けを理解している必要があります。
- プロジェクト管理ツールの使用経験
- バージョン管理システム(Git等)
- 課題管理ツール(Jira等)
- コミュニケーションツール(Slack等)
実務では必ず使用するツールです。
ビジネススキル
- プロジェクトマネジメントの基礎知識
- WBS(Work Breakdown Structure)の理解
- 工数見積もりの基本
- リスク管理の考え方
PMBOKの基礎知識があると、大きな強みになります。
- ドキュメンテーション能力
- 仕様書の作成・理解
- 設計書の作成・理解
- 議事録の作成
「読みやすい」文書を作成できることが重要です。
- ビジネス知識
- 基本的なクライアント理解
- 業界特有の用語理解
- ビジネスプロセスの理解
担当する業界の知識は必須です。

特に注目すべきは、「技術力だけでは食べていけない」という点です。プログラミングが得意なだけでは、SIerでは通用しません。顧客との折衝、チームでの協働、プロジェクト管理など、総合的な能力が求められるのです。
SIer業界で働く魅力
SIer業界は何かと苦労の絶えない面が強調されがちですが、それを上回る魅力もあります。
社会の裏側を支えている実感
電車に乗って、ICカードをピッとかざす。コンビニでお弁当を買う。銀行でお金を引き出す。 そんな当たり前の日常の裏側に、実はSIerの人たちが作ったシステムが息づいているんです。

システムが無事に稼働を始めた時、お客様から「ありがとう」という言葉をもらえることがあります。「このシステムのおかげで、残業が減りました!」そんな言葉を聞くと、夜遅くまで頑張った日々が報われた気がします。
学び続ける喜び
技術の世界は、本当に速い速度で変化していきます。 去年まで主流だった方法が、今年は古いものになっている。一見、それは大変そうに聞こえます。でも、好奇心旺盛な人にとっては、この環境こそが魅力なんです。

「先週覚えたプログラミング言語で、今週は実際のシステムを作っています。来月は、AIの新しい技術を勉強する予定なんです」後輩エンジニアがそう語るように、一つのプロジェクトが終わるごとに、新しい知識や経験が積み重なっていく実感があるのがこの業界のいいところです。
チームで作り上げる達成感
大規模なシステム開発は、一人では絶対にできません。 プロジェクトマネージャー、システムエンジニア、プログラマー、テスター。それぞれの専門性を持った人たちが、時には衝突しながらも、一つの目標に向かって進んでいきます。

システムのリリース直前まで本当に大変です。でも、最後はチーム全員で徹夜しながら完成させた時の喜びは、今でも忘れられないんです
問題解決の面白さ
SIerの仕事は、いわばパズルを解くようなものです。お客様の要望という複雑なパズルを、技術という部品を組み合わせて解いていく。その過程には、課題を論理的に解決していく知的な面白さがあります。

ある製造業の会社で「在庫管理が上手くいかず、必要なときに部品がない」という問題が起きているとします。SIerの仕事は現場の業務フローを分析し、無駄な在庫を持たずに必要な部品を適切なタイミングで発注するにはどうすればいいか?を考えるところから始まります。
まとめ
SIer業界のやりがいは「社会貢献」「技術的成長」「人との協働」という3つの要素が重なり合うところにあります。
技術を通じて人々の生活を支え、チームで価値を創造していく。その過程で自身も成長できる。これこそが、この業界ならではの大きなやりがいと言えるのかもしれません。
人々の生活を便利にし、社会を動かす仕事の魅力をお分かりいただけたでしょうか。