MaaS業界とは
まず、MaaSが生まれた背景から説明しましょう。
私たちの移動手段って、実はとても複雑になっていますよね。電車、バス、タクシー、シェアサイクル、カーシェア…。それぞれ別々の会社が運営していて、支払い方法もバラバラ。これって、とても不便じゃありませんか?
例えば、こんな経験ありませんか? 「駅まで電車で行って、そこからバスに乗り換えて、最後はレンタサイクルで目的地まで行きたい。でも、それぞれの予約や支払いを別々にしないといけない…」
ここで登場するのがMaaS(Mobility as a Service)なんです。
MaaSは「全ての移動をひとつのサービスで完結させよう」という考え方です。スマートフォン1つで、経路検索から予約、支払いまで全部できる。まるでAmazonで買い物するように、移動手段を選んで購入できるんです。
なぜこれが必要なのか?それには3つの大きな理由があります。
- 人々の利便性向上
- 複数の交通手段を簡単に組み合わせられるので、より効率的な移動が可能になります。特に高齢者や観光客にとって、移動がずっと楽になります。
- 交通渋滞や環境問題の解決
- 公共交通機関の利用を促進し、必要な時だけ自家用車を使うことで、街の渋滞緩和や CO2 削減につながります。
- 地方の交通問題解決
- 過疎地域でも、限られた交通手段を効率的に組み合わせることで、移動手段を確保できます。
実際の例を挙げると、福岡市では「MY ROUTE」というMaaSアプリを導入しています。このアプリは、西鉄電車やバス、タクシー、シェアサイクルなどを一元的に検索・予約・決済できます。
利用者は移動がラクになり、交通事業者は新規顧客を獲得でき、市は交通データを活用して街づくりに活かせる。三方良しの関係が生まれているんです。

つまり、MaaSビジネスは「移動」という人々の基本的なニーズに対して、テクノロジーを活用した新しい解決策を提供しているんです。そして、その価値は単に個人の利便性向上だけでなく、社会全体の課題解決にまで及んでいる。それがMaaSビジネスの大きな特徴と言えるでしょう。
MaaS業界のビジネスモデル
はい、MaaS業界のビジネスモデルについて、お金の流れという観点から解説していきましょう。 MaaSには主に4つの収益モデルがあります。
サブスクリプション型(定額制)
例えば、フィンランドの「Whim」では、月額62ユーロ(約1万円)で公共交通機関が使い放題、タクシーも一部利用できるプランを提供しています。交通事業者にとっては、定額で安定した収入が得られ、利用者にとってはバラバラに支払うより総額で安くなるというWin-Winの関係を生み出しています。
手数料型(コミッション)
これは、予約や決済の際に手数料を取る方式です。例えば、利用者が1,000円のタクシーに乗った場合、MaaSプラットフォームが100円(10%)を手数料として受け取るモデルです。航空券予約サイトと似たような仕組みです。
広告・送客型
移動する人の動線上で、商業施設や観光スポットに誘導する。その送客料を収入とする方式です。
例えば、電車を降りた後に近くのカフェで使えるクーポンを配信し、カフェからはその対価として送客手数料をもらうといった
データ活用型
利用者の移動データを分析して、そこから得られる価値を収益化する方式です。例えば、
- 自治体の街づくり計画への活用
- 商業施設の出店計画への活用
- 交通事業者の運行計画最適化
これらのニーズに対するデータ提供やコンサルティングが収益源となります。

多くのMaaS事業者は、これらの収益モデルを組み合わせて運営しています。なぜなら、一つの収益源だけでは、まだビジネスとして十分な規模を確保できないケースが多いからです。MaaSのビジネスモデルはまだ発展途上であり、これからも様々な実験を重ねながら最適な形を探っていく段階だと言えるでしょう。
MaaS業界に関わるプレイヤー
MaaS業界に関わる企業や組織にはどんなプレイヤー・ステークホルダーがいるのでしょうか。
大きく5つに分けて説明しましょう。
大分類 | 小分類 | 分類例 |
---|---|---|
MaaSプラットフォーム事業者 | アプリケーション開発・運営事業者 | • 例:JR東日本、小田急電鉄 • 特徴:自社交通サービスを軸に他社サービスも統合 |
純粋プラットフォーム事業者 | • 例:Uber、トヨタ • 特徴:交通サービスは持たず、プラットフォームの提供に特化 | |
移動サービス提供事業者 | 公共交通事業者 | • 鉄道会社(JR、私鉄各社) • バス会社(路線バス、高速バス) |
個別交通事業者 | • タクシー会社 • カーシェア事業者 • シェアサイクル事業者 | |
テクノロジー提供事業者 | 決済システム事業者 | • クレジットカード会社 • 電子マネー事業者 • QRコード決済事業者 |
データ・システム事業者 | • 経路検索エンジン提供事業者 • クラウドサービス事業者 • 位置情報サービス事業者 | |
関連サービス事業者 | 観光・レジャー事業者 | • ホテル・旅館 • 観光施設 • レンタカー事業者 |
小売・商業施設事業者 | • ショッピングモール • 商店街 • コンビニエンスストア | |
インフラ提供事業者 | 公共・行政機関 | • 国土交通省等の規制官庁 • 地方自治体 • 交通政策研究機関 |
インフラ事業者 | • 道路管理者 • 駐車場事業者 • 充電設備事業者 • 通信インフラ事業者 |
このように、従来の交通事業者がMaaSプラットフォーム事業者となるケースから、自動車メーカーやIT企業などからの参入まで、さまざまなバックグラウンドを持ったプレイヤーが協力しながら市場を牽引しています。
MaaS業界の大手企業
はい、MaaS業界の主要な企業について、世界と日本に分けて解説していきましょう。
まずは世界の主要企業です。
Uber(ウーバー)
- ライドシェアから始まり、MaaSプラットフォームへと進化
- 配車サービスを軸に、公共交通機関との連携を強化
- 世界的な知名度とユーザーベース、豊富な移動データを持つ
Waymo(ウェイモ)
- グーグルの自動運転プロジェクトとして始動
- 一般向け自動運転配車サービス「Waymo One」を本格運用
DiDi Global Inc(ディディ)
- 中国の配車サービス最大手
- 日本国内ではDiDiモビリティジャパンがサービス展開
日本国内の企業も見ていきましょう。
トヨタ自動車
- MaaSアプリ「my route」をサービス提供
- 移動手段の検索・予約・決済までをひとつのアプリ内で完結
- 移動に関わる様々なサービスとの連携を拡大

MONET Technologies
- ソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社
- 生活を支えるモビリティサービスを統合して利用可能なアプリを開発
- 東京臨海副都心の公道で自動運転取り入れた移動サービス事業を開始

JR東日本
- Tabi-CONNECTによる地域・観光型MaaSの展開
- 鉄道を軸とした多様な移動サービスの統合
GO
- 個人・法人向けタクシーアプリ「GО」を主軸に展開
- 日本版ライドシェアのサービスを東京・神奈川エリアで開始
WILLER
- 高速バス事業者からMaaSプラットフォーマーへ発展
- 地方都市での実証実験に積極的

MaaS業界の将来性
MaaS業界の最新トレンドと将来性について、注目すべきポイントを解説していきましょう。
この業界には5つの重要なトレンドがあります。
自動運転との融合
自動運転とMaaSは、実はとても深い関係があるんです。例えば、
- 自動運転タクシーの配車をMaaSアプリで予約
- 自動運転バスの運行状況をリアルタイムで確認
- 深夜や過疎地での新しい移動手段として活用 など。
すでに中国では、BaiduやAutoXが自動運転タクシーのMaaSサービスを始めています。
グリーンモビリティとの連携
「脱炭素」という世界的な潮流とMaaSは結びついています。
具体的には、
- 電気自動車やe-バイクのシェアリングサービス統合
- CO2排出量の可視化と環境負荷の少ないルート提案
- グリーンスコアによるポイント付与
例えば、ドイツのベルリンでは、電動キックボードやe-バイクを含めた「グリーンMaaS」の実証実験が行われています。
スーパーアプリ化
移動だけでなく、生活のあらゆるサービスを一つのアプリで提供する取り組みです。
- 移動手段の予約
- 目的地でのショッピング
- 飲食店の予約
- 宿泊施設の手配
これらが全て一つのアプリで完結させようという動きです。中国のWeChatやAlipayがその先駆けですが、MaaSプラットフォームもこの方向に進化しつつあります。
パーソナライゼーションの進化
AIやビッグデータを活用して、個人に最適化されたサービスを提供する動きが加速しています。
例えば、
- 利用者の行動パターンに基づくルート提案
- 天候や混雑状況に応じた交通手段の推奨
- 個人の予算や時間の制約に合わせた提案
MaaSのサービスは「画一的な解決策」ではなく、「地域や利用者に合わせた柔軟な解決策」を提供することが求められているんです。
地方創生との結びつき
日本特有の課題である地方の交通問題に対する解決策としても注目されています。
具体例:
- オンデマンド交通と既存の公共交通の組み合わせ
- 観光型MaaSによる地域活性化
- 高齢者の移動支援サービス
例えば、ある地域では高齢者の通院時の移動手段確保のために、オンデマンドバスとタクシーを組み合わせたサービスを提供しています。
MaaS業界の課題
「MaaSって素晴らしそうだけど、なぜまだ本格的に普及していないの?」
そう思われた方も多いのではないでしょうか。実は、MaaS業界には大きな4つの壁があるんです。
事業者間連携の難しさ
例えば、こんな状況が起きています。
- データフォーマットが事業者ごとに異なる
- 運賃体系の違いによる料金設定の複雑さ
- システム連携のための投資負担
- 既存の商圏や顧客基盤を守りたい意識
特に日本では、交通事業者同士が競合関係にあることも多く、データ共有や収益配分の調整が難しい状況です。
収益モデルの確立
フィンランド発の Maasスタートアップの元祖であるWhimが24年3月に経営破綻したことは、業界に大きな衝撃を与えました。
- サブスクリプション料金の適正価格設定が難しい
- 利用者数がまだ少なく、スケールメリットが出にくい
- 初期投資(システム開発費等)の回収に時間がかかる
- 事業者間での収益配分ルールが未確立
など、サービス自体がまだ定着しておらず発展途上であるため、収益性が不安定なのです。
法制度の壁
実は、既存の法制度がMaaSの展開を難しくしている面があります。
- 運送法制上の規制(例:タクシーとバスの中間的サービスの位置づけ)
- データ保護に関する規制
- 運賃設定の自由度制限
- 事業者間協業に関する競争法上の制約
国や自治体との官民連携による実証実験が進められていますが、規制が緩和されるのには時間がかかります。
技術的課題
システム面での課題として、以下のような点が
- リアルタイムデータの精度向上
- システム間連携の安定性確保
- セキュリティ対策
- 決済システムの統合
例えば、バスの遅延情報をリアルタイムで正確に把握することは、まだ技術的に難しい面があります。
つまり、MaaS業界の課題は、「技術」「制度」「ビジネス」「社会」という複数の側面に関わるがゆえの複雑なものなんです。しかし、これらの課題を一つずつ解決していくことで、より便利で持続可能な移動社会が実現できる。そのために、様々な関係者が知恵を絞り、取り組みを進めている
MaaS業界の職種
MaaS業界で働く人には、具体的にどんな仕事があるのでしょうか。 主要な職種を5つのカテゴリーに分けて説明します。
プロダクト開発系
アプリやサービスを作る人たちです。
① プロダクトマネージャー
- ユーザーニーズの分析
- 新機能の企画立案
- 開発ロードマップの策定
- 各チームの調整
② エンジニア
- アプリケーション開発者 • アプリのUI/UX設計 • バックエンド系統の開発 • 決済システムの構築
- データエンジニア • 交通データの収集・処理 • リアルタイムデータの連携 • システム間連携の実装
ビジネス企画系
サービスの収益化を考える人たちです。
① ビジネスディベロッパー
- 新規事業の立案
- 収益モデルの設計
- パートナーシップの構築
- 市場分析・競合分析
② アライアンスマネージャー
- 交通事業者との協業推進
- 契約条件の交渉
- データ連携の調整
- 収益配分スキームの設計
運用系
サービスを円滑に動かす人たちです。
① オペレーションマネージャー
- サービス品質の管理
- 異常時の対応
- 利用状況のモニタリング
- 改善施策の立案
② カスタマーサポート
- ユーザーからの問い合わせ対応
- トラブル解決
- 利用者の声の収集・分析
- マニュアル作成
データ分析系
データを活用する人たちです。
① データアナリスト
- 利用データの分析
- 需要予測
- 価格最適化
- 効果測定
② データサイエンティスト
- AI/ML モデルの開発
- 配車最適化アルゴリズムの開発
- 予測モデルの構築
- パターン分析
渉外・企画系
対外関係を管理する人たちです。
① 渉外担当
- 行政との調整
- 規制対応
- 業界団体との連携
- 補助金申請
② 広報・マーケティング担当
- PR戦略の立案
- 利用促進施策の企画
- SNS・メディア対応
- イベント企画
つまり、MaaS業界は様々なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる場なんです。従来の交通業界の知識と、ITの知識を組み合わせた新しい職種が生まれているというわけです。
MaaS業界に向いている人の特徴
MaaS業界にぴったりな人の考え方について、その特徴をお話ししましょう。
誰もが自由に移動できる世界を作りたい
お年寄りも、障がいのある方も、車を持っていない人も。誰もが行きたい場所へ、スムーズに移動できる。そんな世界を実現したい。それは彼らの深い願いであり、誇りでもあるんです。
都市の課題を解決したいという使命感
渋滞、環境問題、過疎地の交通弱者。これらの問題に、MaaSという新しい武器で立ち向かおうとしている。その眼差しには、社会をより良くしたいという熱意が宿っています。
「未来」と「現実」の両方を見られる
夢のような移動体験を思い描きながら、足元の課題もしっかり見つめている。理想的なサービスを目指しながらも、現状の不完全さも受け入れて、そこから改善していく忍耐が必要です。
失敗を恐れない
新しいサービスだけに、うまくいかないことも多い。でも彼らは、その一つ一つを「利用者のための学び」として受け止めます。失敗は、次の成功への踏み台なんです。

この業界の使命は、「移動の自由」という人間の基本的な権利を、現代のテクノロジーで再定義すること。MaaS業界の人々が大事にしているのは、「移動」という人間の根源的な欲求に、新しい解答を見つけたいという情熱なのかもしれません。
まとめ
MaaSが指すものは単なるアプリやサービスではありません。
誰もが、行きたいところへ自由に行ける未来を作っているんです。
これからの社会における「移動」のあり方を根本から変える可能性を秘めた存在なんですね。
MaaSという新しい産業が、私たちの暮らしや社会をより良い方向に変えていく可能性を感じていただけたでしょうか?