証券業界とは
企業と投資家をつなぎ、経済を活性化させる
証券業界は、かんたんに言うと「お金を必要としている企業」と「お金を増やしたい人(投資家)」をつなぐ仕事をしています。
例えば、ある会社が「新しい製品を開発したい!」「海外進出したい!」と思ったとします。でも、そのためには大きなお金が必要。企業が資金を集める方法はいくつかありますが、大きく分けると 「銀行から借りる」 か 「投資家から直接集める」 かの2つです。
証券会社は、企業が 「株」や「社債」 を発行するのを手伝い、それを投資家に販売することで資金調達をサポートするんです。
もし証券業界がなかったら、企業は銀行からお金を借りるしかなくなり、成長スピードが落ちるかもしれません。
証券取引の透明性と流動性を確保する
証券会社は、ただ売買を仲介するだけでなく、投資家が安全に取引できる環境を提供することも大切な役割です。
もし、証券会社がいなかったらどうなるでしょうか?
例えば、あなたが「A社の株を買いたい!」と思っても、どこで買えばいいのかわかりませんよね。また、売りたい時に 「買い手が見つからない!」 ということもあり得ます。
証券会社は 「市場(証券取引所)」と投資家をつなぐことで、売りたい人と買いたい人をスムーズにマッチングさせています。
これによって、「株や債券がスムーズに売買できる=流動性が高い」 状態が保たれています。

証券業界は、企業が成長し、投資家が資産を増やし、経済全体が活性化するように 「お金の流れを円滑にする」 という重要な役割を果たしているんです。
証券業界のビジネスモデル
それでは、証券会社は、いったいどうやって利益を出しているのでしょうか?
これがわかると、証券業界のビジネスモデルがすっきり見えてきます。
大きく分けると 「手数料ビジネス」 と 「自己売買ビジネス」 という2つの柱があります。
手数料ビジネス(フィービジネス)
証券会社のメインの収益源は手数料です。
投資家や企業が証券会社を利用するたびに、一定の手数料が発生する仕組みになっています。また、手数料の種類にもいくつか存在します。
1. ブローカー業務(仲介業務)
投資家が株や債券を売買するのを仲介する仕事です。
たとえば、あなたが「トヨタの株を買いたい」と思ったら、証券会社を通じて注文を出しますよね?証券会社は、投資家の注文を証券取引所につなぎ、取引が成立したら「**売買手数料」**をもらいます。
- 例として、株の売買を1回すると数百円~数千円の手数料が発生
- ネット証券では手数料が低め、大手証券では対面サポートがあるため手数料が高め
2. 引受業務(アンダーライティング)
企業が株式や社債を発行する際に、証券会社がそれを引き受けて市場に販売します。
これによって、企業の資金調達をサポートする代わりに、証券会社は**「引受手数料」**を得ます。
3. M&A(合併・買収)のアドバイザリー
最近、企業の合併・買収(M&A)が増えていますが、証券会社は「企業同士の結婚相談所」 のような役割を果たします。
例えば「A社がB社を買収したい」ときに、証券会社が間に入り、アドバイスや交渉をサポートします。成功すれば、「アドバイザリー手数料」 を得ることができます。
4. 資産運用・投資信託の販売
証券会社は、個人投資家向けに投資信託などの資産運用商品を販売しています。
投資信託とは、プロ(ファンドマネージャー)が運用する投資商品で、個人投資家は証券会社を通じて購入します。
証券会社は、投資信託を販売するときに「販売手数料」を得たり、運用中も 「管理報酬(信託報酬)」 を受け取ることができます。
自己売買ビジネス(ディーリング業務)
証券会社は、投資家の注文を仲介するだけでなく、自分自身でも投資を行うことで利益を出しています。
これを「自己売買(プロップ・トレーディング)」といいます。
- 株や債券を安く買って、高く売る
- 先物取引やデリバティブ(金融派生商品)を使って利益を出す
証券会社の自己売買部門は、プロのトレーダーがマーケットの動きを見ながら取引を行い、利益を追求します。

証券会社の中には、お金をたくさん持っている富裕層を対象に、個別の資産運用アドバイスをする部門もあります。いろいろな形で投資家と企業をつないでいるのですね。
証券業界の主要プレイヤー分類
証券業界には、さまざまな組織が関わっています。
証券ビジネスのプレイヤーを役割ごとに分類
証券業界には、大きく分けて 「取引を仲介する会社」「投資を行う会社」「取引の仕組みを支える組織」 があります。
それぞれの役割に応じて、以下のように分類できます。
分類 | プレイヤーの役割 | 具体例 |
---|---|---|
① 証券会社(金融仲介) | 株や債券の売買仲介、投資銀行業務、資産運用サービスを提供 | 野村證券、大和証券、SBI証券、楽天証券、ゴールドマン・サックス |
② 機関投資家(プロの投資家) | 大規模な資産運用を行う | 年金基金、生命保険会社、投資信託会社、ヘッジファンド |
③ 取引所・決済機関 | 株や債券の売買を管理・運営 | 東京証券取引所(JPX)、証券保管振替機構(ほふり) |
④ 規制当局・監督機関 | 証券市場のルールを作り、監督する | 金融庁、日本証券業協会(JSDA)、証券取引等監視委員会(SESC) |
証券会社の分類
さらに、証券会社は、その事業の範囲やビジネスモデルによって、以下のように分類できます。
分類 | 特徴 | 具体例 |
---|---|---|
① 大手総合証券(フルライン証券) | 国内外で広範なサービスを提供(個人向け・法人向け両方) | 野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券 |
② ネット証券 | インターネットを活用し、手数料を低く抑えた取引サービスを提供 | SBI証券、楽天証券、マネックス証券、auカブコム証券 |
③ 外資系証券 | グローバルに展開し、投資銀行業務や機関投資家向けサービスに強み | ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、JPモルガン、シティグループ |
④ 地方・中堅証券 | 地域密着型の証券会社で、個人投資家向けサービスが中心 | いちよし証券、東海東京証券、水戸証券 |
⑤ 投資銀行(専門特化型) | 株式や債券の発行支援、M&Aアドバイザリーに特化 | GCA(M&A専門)、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 |
証券業界の主要企業12社
日本国内の証券業界の主な企業とその特徴をまとめました。
野村ホールディングス
- 日本最大手の証券会社であり、国内外で幅広い金融サービスを提供
- 特にM&A(合併・買収)やエクイティ・キャピタル・マーケッツ(ECM)分野で強み
大和証券グループ本社
- 日本第2位の証券会社であり、投資銀行業務や資産運用業務も行う
- 海外ではアジアを中心に提携網拡大

SMBC日興証券
- 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)傘下の証券会社であり、総合的な金融サービスを提供
- 銀行との連携を活かし、リテールからホールセールまで幅広いサービスを展開

みずほ証券
- みずほフィナンシャルグループに属する証券会社で、大手5社の一角。
- 銀行・信託との連携を強化しており、グローバル投資銀行業務も拡大中
三菱UFJモルガン・スタンレー証券
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と米国のモルガン・スタンレーの合弁による証券会社
- グローバルなネットワークを活かし、国内外の投資銀行業務やマーケット業務を展開
SBI証券
- インターネットを基盤とした低コストで利便性の高い金融サービスを提供
- オンライン証券の分野でトップクラスの地位で、業界最多の口座を有する

楽天証券
- ネット専業証券で業界2位。
- 多彩な商品ラインと取引情報ツールに定評がある

東海東京フィナンシャル・ホールディングス
- 中京地区地盤の証券会社
- 地方銀行と積極的な合弁証券会社を設ける
岡三証券グループ
- 独立系の証券会社で、全国で地域密着型の対面営業を推進
- 近年はネット証券が成長

マネックス証券
- ネット証券の大手
- NTTドコモ・マネックスグループ・マネックス証券の3社による業務提携を開始

日本取引所グループ
- 東京証券取引所や大阪取引所を傘下に持つ持株会社で、日本の主要な証券取引所を運営
- 株式やデリバティブ取引のプラットフォームを提供し、日本の資本市場の中核を担う

ウェルスナビ
- ロボアドバイザーの最大手で、個人向け金融プラットフォームを提供
- エンジニアやデザイナーを自社に抱え、ITシステム企業の側面も持つ

証券業界の将来性
証券業界の将来性を感じる最新トレンドについて、4つのトピックスをご紹介します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展
証券業界ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進んでいます。従来、証券業務は複雑で書類中心のプロセスが多く、時間とコストがかかることが課題でした。しかし、テクノロジーの活用により、業務プロセスの自動化やペーパーレス化が進み、効率化が図られています。
ネット証券の台頭と手数料の低下
インターネットを活用した証券会社が増え、手数料の引き下げ競争が激化しています。これにより、投資家は低コストで取引を行えるようになり、投資へのハードルが下がっています。
また、スマートフォンアプリを活用した取引が普及し、若年層の投資参加も増加しています。これにより、証券市場全体の活性化が期待されています。
ESG投資とサステナブル・ファイナンスの拡大
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)といった要素を重視した投資のことです。近年、持続可能な社会の実現に向けて、ESG投資が拡大しています。
証券会社も、ESG関連の商品を提供したり、サステナブル・ファイナンスに関する人材育成を進めたりと、積極的に取り組んでいます。
金融リテラシー教育の強化
投資家が適切な判断を行うためには、金融知識が不可欠です。そのため、証券業界全体で金融教育の推進が進められています。
具体的には、セミナーの開催やオンライン講座の提供などを通じて、投資家の知識向上をサポートしています。これにより、投資家は自信を持って投資活動を行えるようになります。
証券業界の課題
一方、証券業界が抱える課題にも触れていきましょう。
日本人の投資意識の低さ
まず、日本では 「貯蓄から投資へ」 の流れが諸外国と比較し進んでいない現状があります。日本人は預金を好む傾向が強く、投資に対する抵抗感が根強いのです。この背景には、バブル崩壊の記憶やリスク回避の文化が影響しています。
規制遵守とセキュリティ対策の強化
厳格な規制環境の中で運営される証券業界では、規制遵守(コンプライアンス) と セキュリティ対策 が重要な課題です。これらを怠ると、企業の信頼性が損なわれるだけでなく、法的なリスクも伴います。
人口減少と高齢化による市場縮小
日本の人口減少と高齢化は、証券業界にも影響を及ぼしています。将来的な市場の縮小が懸念され、各社は海外進出や新たなビジネスモデルの模索を進めています。
証券業界の主な職種と仕事内容
証券会社で働いている人と聞くと、「株を売ったり買ったりしている人」をイメージするかもしれません。でも実は、証券会社にはさまざまな職種の人がいて、それぞれ重要な役割を果たしています。
営業・リテール部門(個人・法人向け営業)
まず、一番わかりやすいのがお客様に証券サービスを提供する仕事です。この部門の人たちは、お客様との信頼関係を大事にしながら、投資のアドバイスを行います。
リテール営業(個人向け営業)
- 個人投資家(一般の人)に対して、株式、投資信託、債券などの金融商品を提案・販売する
- 「この株が有望です」「この投資信託なら安定した運用ができますよ」といったアドバイスを提供
法人営業
- 企業の財務担当者とやりとりし、資産運用や資金調達のサポートをする
- 「A社が新しい工場を建てるために資金が必要」となれば、株式発行や社債発行の提案を行う
投資銀行部門(企業の資金調達・M&A支援)
企業の成長をサポートする部門です。株式市場の動向を見極めながら、企業のお金の流れを作ります。交渉力が重要な仕事です。
M&Aアドバイザー
- 企業の合併・買収(M&A)を支援する仕事
- 「A社がB社を買収したい!」というときに、価格の交渉や契約の手続きをサポート
エクイティ・キャピタル・マーケット(ECM)
- 企業が株式を発行して資金調達するのをサポートする仕事
- 例えば、「A社がIPO(新規株式公開)したい!」というときに、証券取引所に上場するための準備を行う
デット・キャピタル・マーケット(DCM)
- 企業が社債を発行して資金調達するのをサポートする仕事
- 株ではなく、安定した「債券」で資金を調達したい企業に向けてアドバイスを提供
マーケット部門(金融市場で取引をするプロ)
証券会社のマーケット部門は、金融市場で実際に取引を行い、会社の利益を上げる仕事です。
トレーダー
- 株、債券、為替、デリバティブ(金融派生商品)などを 「安く買って、高く売る」 ことで利益を出す
- マーケットの動きをリアルタイムで分析しながら、「ドル円が上がりそうだから買っておこう」など瞬時に判断を下す
アナリスト
- 経済の動向や企業の業績を分析し、「この会社の株価は今後どうなるか?」を予測する仕事
- 企業ごとのレポートを作成したり、国の経済や金利の動きも分析する
クオンツ
- AIやアルゴリズムを使った取引(クオンツ・トレーディング) を担当
- 例えば、数千社の株価データをAIで分析し、「どの株が上がる確率が高いか?」 を予測する
リスク管理・コンプライアンス・バックオフィス
証券会社の業務を支える 管理部門も重要な役割を果たしています。
リスク管理
- 証券会社の投資活動が 「過度なリスクを取っていないか?」 をチェックする仕事
- 「この投資は市場の急変で大損するリスクがある!」といったリスクを分析
コンプライアンス(法務・規制対応)
- 自社や取引先がルールを守っているかを監督する仕事
- 例えば、「この取引はインサイダー取引に当たらないか?」などをチェックする
バックオフィス(決済・事務管理)
- 株や債券の売買が成立した後の決済処理や顧客データ管理を行う

証券会社の仕事は、単に「株を売る」だけではなく、さまざまな役割の人たちが支え合っているんですね。
証券業界の文化と特徴
証券業界には、普通のオフィスとはちょっと違う独特な文化があります。
朝が早い
証券会社の朝は、一般的な会社よりも早い慣習があります。なぜなら、株式市場は朝9時に開くからです。
それまでに、最新の経済ニュースをチェックし、顧客への提案資料を準備し、チーム内で情報を共有する必要があります。
コーヒーを片手に、ニューヨーク市場の動向を確認し、為替の変動をチェックする。
「昨日の日経平均が下がった理由は?」「今日はどの銘柄が動きそう?」そんな会話が、あちこちで飛び交っています。
数字にシビア
証券業界は実力主義の世界。「頑張っている」よりも、「結果を出したかどうか」が評価されます。
営業職なら、「どれだけ売ったか」。
トレーダーなら、「どれだけ利益を出したか」。
アナリストなら、「どれだけ的確な分析ができたか」。
プロセスも大事だけど、どの職種でも数字を意識しながら仕事をしています。
単なる金儲けではない
「お金を増やしたい」と思う投資家と、「お金を集めたい」と思う企業の間に立っているのですから、証券業界にいる人たちがお金のことを考えないはずがありません。
けれども、証券業界の人たちが考えているのは、「単なる金儲け」 ではありません。
「どうすれば企業が成長できるのか?」
「どうすれば個人投資家が資産を増やせるのか?」
「どうすれば日本の経済を活性化できるのか?」
お金を「どう動かすか?」が、証券業界の人たちの最大のテーマなのです。
証券業界に向いている人の考え方
それではどんな考え方の人が、この業界で楽しく、そして長くやっていけるのでしょうか?
この業界に向いている考え方を3つのポイントで説明してみます。
スピード感を楽しめる
証券の仕事は、のんびり考えている余裕はありません。「ちょっと考えます……」なんて言っている間に、株価はどんどん動くし、ライバル会社に先を越されてしまう。
たとえば、トレーダーなら、「このニュースが出たら、今すぐ買うべきか?」と瞬時に判断しなければなりません。ここで求められるのは、「完璧じゃなくても、とりあえず決断する」という考え方。
考えすぎて足が止まるよりも、「まず動く」という考え方ができる人のほうが、この業界では生き残りやすいのです。
タフな精神力
証券業界は、ある意味、失敗が当たり前の世界です。
どんなに優秀なアナリストでも、未来の株価を100%当てることはできないし、どんなに腕のいいトレーダーでも、損を出すことはあります。
そんなとき、「もうダメだ」と諦めてしまうのではなく、「次にどうするか?」 を考え、立ち上がる強さが求められるのが証券業界。
「人生、うまくいかないことのほうが多いよね」と、サラリと流せる人のほうが、この業界では強く生き抜けるのかもれません。
金より信頼に重きを置く
証券の世界では、「信用がすべて」と言っても過言ではありません。
「この株、絶対に上がりますよ!」と軽々しく言ってしまう人は、誰からも相手にされないからです。どんなに優秀な営業マンでも、ウソをついたり、いい加減なアドバイスをしたりしたら、あっという間に信用を失ってしまう世界。
一度信用を失えば、取り戻すのは至難の業。だからこそ、証券業界の人々は、「誠実であること」「知識を磨くこと」「嘘をつかないこと」を何より大事にしています。

華やかに見える証券業界ですが、その裏には泥臭い努力も隠れています。自分の判断が経済を動かし、投資家の利益になり、企業の成長につながるという責任感が、この業界の人々の原動力なのかもしれません。
まとめ
証券会社の仕事は難しそうに見えますが、その本質は 「お金の流れを円滑にし、世の中を回す」 こと。
経済を活性化させることで、私たちの生活をより豊かにする経済のエンジンのような存在とも言えるかもしれません。
経済を回し、人々の未来を作る「金融のプロ」の魅力を、お分かりいただけたでしょうか。