自動車部品業界とは
自動車部品メーカーの高い専門技術で自動車が出来ている
私たちが毎日目にする自動車。1台の車には、なんと約3万個もの部品が使われています。エンジン、ブレーキ、タイヤ、シート、ナビゲーションシステムなど、すべての部品が欠けることなく働くことで、安全で快適な移動が実現できています。
では、なぜ自動車メーカーはこれらの部品を全部自社で作らないのでしょうか?それは、各部品に高度な専門性が必要だからです。例えば、ブレーキ1つを取っても、摩擦材の開発や精密な機械加工など、特殊な技術が必要です。自動車部品メーカーは、それぞれ専門性を活かして性能の高い部品を効率的に開発・製造しているんです。
自動車部品業界の顧客と提供価値
まず、自動車部品メーカーの直接の顧客は、トヨタやホンダのような自動車メーカーです。ただし、その先にいる最終的な顧客は一般消費者、つまり車を購入して運転するユーザーです。
それぞれに対する提供価値を見ていきましょう。
■自動車メーカーに対して
自動車メーカーには、大きく3つの課題があります。
- 開発コストと時間の解決
例えば、新しい車を開発するとき、すべての部品を自社で開発していたら、膨大な時間とコストがかかってしまいます。部品メーカーは、長年培った専門知識と技術力を活かし、高品質な部品を効率的に開発・供給することで、この課題を解決しています。 - 技術革新への対応
自動運転や電動化など、技術の進化が急速に進む中、すべての分野で最先端の技術を持つことは困難です。部品メーカーは、特定の分野に特化することで、最新技術を効率的に開発し、提供しています。 - グローバル供給体制の構築
世界中で車を生産する自動車メーカーにとって、品質の安定した部品を、必要な時に必要な場所で調達することは大きな課題です。部品メーカーは世界各地に生産拠点を設け、この課題に対応しています。
■最終消費者(ドライバー)に対して
私たち消費者の課題とニーズにも応えています。
- 安全性 ブレーキメーカーのアケボノブレーキは、高性能なブレーキシステムを開発することで、事故のリスクを低減しています。
- 快適性 カーナビメーカーのアルパインは、使いやすく高機能なナビゲーションシステムを提供することで、快適なドライビング体験を実現しています。
- 燃費や環境への配慮 例えば、軽量化部品を専門とするメーカーは、車体の軽量化を通じて燃費向上に貢献し、私たちの経済的負担と環境負荷を減らしています。

自動車部品メーカーは、自動車メーカーとその先にいる私たち消費者、双方の課題解決に貢献しているんです。彼らの技術と努力があってこそ、私たちは安全で快適な自動車生活を送ることができているんですね。
自動車部品業界のビジネスモデル
自動車部品業界のビジネスモデルには、大きく分けて2つの収益モデルがあります。
量産品のビジネス
これは、自動車メーカーから大量の注文を受けて、同じ部品を大量生産するモデルです。例えば、デンソーがトヨタに供給するエアコンユニットや、ブリヂストンが各自動車メーカーに供給するタイヤなどがこれにあたります。
- このビジネスの特徴
- 初期の設備投資は大きいものの、大量生産によって1個あたりのコストを下げることが可能
- 長期の取引契約を結ぶことで、安定した収益を確保できる
- 価格は自動車メーカーとの厳しい交渉で決まる
開発受託のビジネス
自動車メーカーの新車開発に合わせて、新しい部品を開発・設計するモデルです。例えば、新型EVのバッテリーシステムの開発や、先進運転支援システム(ADAS)のセンサー開発などです。
- このビジネスの特徴
- 開発費用を受託費用として回収
- 開発した部品の特許権を持つことで、知的財産収入も得られる
- 開発後の量産供給権を確保できれば、その後の安定収益にもつながる

自動運転技術の発展により、ソフトウェアの重要性が増し、収益構造も変化してきています。この業界では、従来型の「モノづくり」による収益から、技術開発や知的財産による収益の比重が徐々に高まってきているということです。
自動車部品業界のプレイヤー分類
自動車部品業界のプレイヤーを3つの観点で分類していきましょう。
製品カテゴリー別分類
業界分類 | 説明 |
---|---|
パワートレイン系部品メーカー | エンジン、トランスミッション等 |
車体系部品メーカー | ボディ、シャーシ、サスペンション等 |
電装系部品メーカー | ECU、センサー、ワイヤーハーネス等 |
内装系部品メーカー | シート、内装パネル、空調等 |
外装系部品メーカー | バンパー、ライト、タイヤ等 |
サプライチェーン階層別分類
業界分類 | 説明 | 企業例 |
---|---|---|
Tier 1 | 自動車メーカーに直接納入 | デンソー、アイシン精機、ジェイテクト |
Tier 2 | Tier 1に部品供給 | 中堅部品メーカー、専門加工メーカー |
Tier 3 | Tier 2に素材・部材供給 | 素材メーカー、小規模加工メーカー |
顧客関係別分類
業界分類 | 説明 | 企業系 |
---|---|---|
系列型 | 特定メーカーとの強い結びつき | デンソー(トヨタ系)、ジヤトコ(日産系) |
独立系 | 複数メーカーと取引 | 住友電工、NOK |
専門特化型 | 特定分野で複数メーカーと取引 | 特殊加工や特定部品に特化したメーカー |

これらの分類は相互に関連しており、一つの企業が複数のカテゴリーに属することも一般的です。例えば、デンソーは電装系のTier 1サプライヤーであり、トヨタ系列の企業でもあります。
自動車部品業界の主要企業20社
国内の自動車部品業界の主要企業についてそれぞれの特徴を整理してご紹介します。
デンソー
- トヨタグループの中核部品メーカーで自動車電装品で世界トップ
- パワートレイン制御システム、空調システム、先進運転支援システムに強み

アイシン
- オートマチックトランスミッションで世界シェア首位
- トヨタ系で駆動系部品、ブレーキ、車体部品が中核
住友電工
- ワイヤーハーネスで世界シェア2位
- 電装品、光ファイバー、特殊金属材料など他分野展開
矢崎総業
- ワイヤーハーネス世界トップクラス
- 非上場ながら世界展開する大手

トヨタ紡織
- 国内最大、世界4位の自動車内装品メーカー
- シートやドアトリム、フィルター製品が主力

ジェイテクト
- 電動パワーステアリングのパイオニアであり世界シェア
- ベアリングや工作機械でも有名

マレリホールディングス(売上高:約1.5兆円)
- 日産系のカルソニックカンセイとイタリアのマニエッティ・マレリが経営統合
- 熱交換器、空調システム、計器類が主力製品

日立Astemo
- 2021年に3社が経営統合し誕生
- コネクテッド,自動運転,電動化の分野でシステム設計開発
豊田自動織機
- フォークリフト、カーエアコン用コンプレッサーで世界シェア
- トヨタグループの本家であり、現在も繊維機械も手がける
豊田合成
- トヨタグループの合成樹脂・ゴム部品メーカー
- 安全システム製品、内外装部品で特に強み
- 軽量化技術でEV化に対応
小糸製作所
- ヘッドランプなど自動車照明器具で世界トップクラス
- LED技術で高い競争力を持つ
ニッパツ
- 自動車の懸架ばねで世界首位
- 独立系で、金属基板やHDD用バネなど高シェアの部品を多数保有

アルプスアルパイン
- 電子部品のアルプス電気と車載情報機器のアルパインが統合
- タッチパネル等車載電装品のほか、スマホカメラ部品などが柱
東海理化
- トヨタ系でスイッチ、キーロック、シートベルトの手
- エレクトロニクス分野にも強く、自動車用半導体を自社で開発

ニデック
- モーター世界大手で、自動車の他にも家電用、産業用に展開
- 祖業であるHDD用モーターは世界シェア80%で圧倒的No.1

NTN
- ベアリング大手で、等速ジョイントでは世界2位
- EV向け高性能部品も開発
ジヤトコ
- 自動車用変速機および電動車両用部品を製造・販売
- 日産自動車の連結子会社

日本特殊陶業
- スパークプラグで世界シェア首位
- 医療関連、5G通信関連、燃料電池など新分野を強化

三菱電機モビリティ
- 2024年4月1日に三菱電機株式会社の自動車機器部門が分社・独立して発足
- ドライバーモニタリングシステム(DMS)事業を強化

テイ・エス テック
- ホンダ向けの4輪用シート部品や内装部品の製造販売が中心
- 衝突安全性などのテクニカルセンターを持ち製品開発力が高い
自動車部品業界の将来性と課題
自動車業界は今、100年に一度の大変革期と言われています。それは成長チャンスであるとともに、課題でもあります。大きな4つのトレンドを解説します。
電動化
EVが主力になる中、従来のエンジン部品メーカーは事業の転換を迫られています。例えば、エンジン部品大手のアイシンは、電動駆動ユニットの開発に大きく舵を切りました。一方で、モーターやバッテリー関連部品の需要は急増しており、ここに商機を見出す企業も増えています。
自動運転化
自動運転には、人間の目や判断に相当する機能が必要です。そのため、カメラやレーダー、各種センサーの需要が爆発的に伸びています。また従来の自動車部品メーカーだけでなく、IT企業も続々と参入してきています。
ソフトウェアの重要性
最新の車には100個以上のコンピューターが搭載され、数千万行のプログラムが動いているんです。そのため、部品メーカーもソフトウェア開発能力の強化を迫られています。
サステナビリティへの対応
脱炭素やSDGsへの要請が強まる中、部品メーカーも対応を迫られています。軽量化技術の開発や、製造工程でのCO2削減などの取り組みが活発化しています。

これらのトレンドに対応するには新しい技術が必要なため、各社とも異業種との協業や、スタートアップの買収が活発になっています。この変革を乗り越えた企業がさらに次世代で成長していくと見込まれます。
自動車部品業界の職種
自動車部品業界にはどんな職種があるのか、見ていきましょう。大きく分けると『製品開発』『製造』『営業・企画』の3つの部門があります。
製品開発部門
新しい部品を生み出す人たちです。
■設計エンジニア
「部品の設計図を描く人」と思われるかもしれませんが、実際の仕事はもっと幅広いんです。
- 主な仕事
- 3D-CADを使った製品設計
- 強度計算やシミュレーション
- 試作品の評価・検証
■ソフトウェアエンジニア
現代の車の制御には大量のソフトウェアが必要なんです。
- 主な仕事
- ECU(電子制御ユニット)のプログラミング
- 自動運転システムの開発
- 通信システムの開発
■実験評価エンジニア
設計された部品が本当に機能するのか、安全なのかを確認する重要な役割です。
- 主な仕事
- 耐久試験の実施
- 安全性テスト
- 環境試験(高温・低温での動作確認など)
製造部門
実際に部品を作る現場を支える人たちです。
■生産技術エンジニア
「製造のプロフェッショナル」と呼ばれる人たちです。最近では、AI・IoTを活用したスマートファクトリー化も重要な仕事です。
- 主な仕事
- 生産ラインの設計
- 製造工程の改善
- 自動化システムの導入
■品質管理エンジニア
製品の品質を保証する要となる存在です。
- 主な仕事
- 製品検査の実施
- 品質データの分析
- 不良品発生時の原因究明
■製造オペレーター
実際の製造現場で、製品を作る仕事です。
- 主な仕事
- 製造設備の操作
- 製品の組み立て
- 品質チェック
営業・企画部門
製品を売り、新しいビジネスを創出する人たちです。
■営業担当
自動車メーカーとの窓口となる重要な存在です。技術的な知識も必要なため、「技術営業」と呼ばれることも。
- 主な仕事
- 新規案件の獲得
- 価格交渉
- 技術的な提案
■企画担当
将来のビジネスを考える部門です。
- 主な仕事
- 市場調査・分析
- 新規事業の立案
- 中長期戦略の策定
■調達担当
部品や材料の購買を担当します。
- 主な仕事
- サプライヤーの選定
- 価格交渉
- サプライチェーン管理
自動車部品業界の文化
自動車部品業界は、合理性と人間味が不思議なバランスで調和した独特の世界だと感じます。その特徴の一端をご紹介しましょう。
なぜなぜ文化
たとえば、新人教育では「なぜなぜ分析」という手法を叩き込まれます。これはトヨタ自動車の考え方から生まれたもので、不良が出たとき、その原因を5回「なぜ?」と掘り下げていくんです。 根本的な原因にたどり着くまで、妥協を許さない姿勢が表れています。
改善提案制度
ある工場では、作業者の方々が手書きのメモを改善提案ボックスに入れていきます。 「この位置に置く部品を、左に15センチずらせば、手の動きが2回減らせます」 「この作業台の高さを3センチ下げれば、肩が楽になります」 一見些細な提案かもしれません。しかし、小さなことを真剣に検討していく積み重ねが、世界に誇る品質を支えているのです。
根回し文化
設計、生産技術、製造、品質管理…。それぞれのプロフェッショナルがいる職場では、「稟議を通す前に、必ず関係者全員に説明して回る」というスタイルが取られます。形式的な会議の前に、実質的な合意を取り付けていく。時間はかかるけれど、それが後々のトラブルを防いでいます。
現場主義
「机の上からは見えないものが、現場にはある」と、部長もスーツを作業着に着替え、現場を歩き回ります。作業者と言葉を交わし、機械の音を聴き、製品を手に取る。製造の現場にこそ自分たちの強さと、品質の本質が詰まっていると知っているからです。
自動車部品業界に向いている人の特徴
自動車部品業界で活躍する人の考え方について、私なりの見解をお話ししたいと思います。
『縁の下の力持ち』を誇りに思える
完成車メーカーの名前は誰もが知っています。でも、部品メーカーの名前を知る人は少ない。それでも、「この部品があるからこそ、あの車は走れるんだ」と、エンジンの中で黙々と働く小さなギア一つにも、人の命を守る使命があると信じられる人。目立たない場所で、確かな価値を生み出すことに喜びを見出せる人が向いている業界です。
完璧への飽くなき追求心
ある品質管理担当者は言います。「99.9%の良品率では足りない。100万個作って1個でも不良があれば、その1個が事故を起こすかもしれないんです。」その言葉に、この業界で求められる考え方が集約されているように思います。データに基づき、粘り強く完璧を追求できる人。それがこの業界で重宝される人の条件です。
”チームの中の個”という考え方
独創的なアイデアは大切。でも、それを独りよがりにせず、チームの中で育てていける人がフィットしています。 「この案は面白いけど、製造現場の負担は大丈夫かな」「コスト的に実現できるだろうか」 そんな様々な視点を受け入れ、より良いものに昇華できる人が長く活躍しているようです。

大前提として『自動車への情熱』というものがあり、「自分の作る部品が、誰かの命を守っている」という使命感で品質を極めていく。そうして着実に進歩していくスタンスは、この業界ならではのものかもしれません。
まとめ
一つの部品の中には、様々な技術が詰まっています。
機械工学、電気電子、材料工学、ソフトウェア…。あらゆる技術の粋を集めた場所で、新しい技術を学ぶ機会が無限にある環境が、この業界にはあります。
そして今、自動車産業は100年に一度の大変革期。未来のモビリティ社会を自らの手で作っていく、そんなワクワクする仕事に関われる場所でもあります。
自動車産業全体のイノベーションを牽引する自動車部品業界の魅力を、感じていただけたでしょうか。